あたしと俺の今6


その日。二人が待っているという城までは、男に抱えられて行くこととなった。
不愉快極まりないが、慣れない道を実際に手を繋いでちんたら歩いていくよりかは余程効率的だろう。
あたしは昨日から千秋ちゃんになりきっているためか、男も複雑そうではあるけれどそこまで機嫌が悪いようには見えない。

数時間の道のりは風を切るような速度で進み、漸く到着した場所では二人の男が殴り合いをしていた。
そこで、あたしの世界は一瞬時を止める。

「――っゆき!?」

出かかった言葉を、止めることが出来なかった。

あたしの声に反応して、男たちは殴り合いをやめる。そうして屋根の上に一旦足をつき、彼らの目前へと着地した男とあたしを見て、嬉しそうに顔を綻ばせた。
先の発言は、はっきりとは聞こえていなかったらしいと安堵する。あたしを地面へと優しくおろす男には、聞こえていたのだろうけれど。

「千秋殿!お久しい、元気にしておられたか?」
「久しぶりじゃのう、千秋。少し痩せたのではないか」

この、目の前に立つのが、武田信玄公と真田幸村だというのか。こんな、大男が。こんなジャニ顔のイケメンが。
男へちらと視線を向ける。なんら違和感なく二人へ顔を向けている。
ということは、そうなんだろう。

そして一つの事実が確定した。
此処は、あたしの知っている過去の日本ではない。

「お久しぶりです、武田様、幸村様。長らく姿をお見せ出来なくて申し訳ありません。千秋は元気にやっておりますよ。少々痩せはしましたが、まだ力こぶを無くしてはおりません」

えへんとでも言う風に、左腕に力を込めてみる。そうして硬くなった上腕二頭筋は、まあ着物の下に隠れているのだが。
けれどあたしの行動を見て、信玄公と幸村は楽しそうに笑う。反面、男のみが「まだ筋トレしてやがったのかこいつ」とでも言いたげな視線であたしをひっそり睨んでいた。

「そうか、そうか!ならば良い。佐助とも睦まじくしておるのか?」
「はい。任務の合間を縫ってわたしの相手をしてくれています。忙しいのだから無理はしないよう言ってはいるのですが……武田様と幸村様からも言ってやってくださいな」
「佐助!休めるときには休んでおけとあれだけ言ったであろう!千秋殿にも心配をかけているではないか」
「俺様には千秋ちゃんのとこに行くのが一番の休息なの!」

ねー、とわざとらしさ百パーセントの笑みを向けられたので、恥ずかしそうに目を逸らしておいた。
そんな様を見て、二人はやっぱり楽しそうに、嬉しそうに笑う。

恐らく、彼らにとって千秋は妹か娘に近い存在なのだろう。
たかが元女中とはいえ、これだけ親密にしている男の嫁となったんだ。そうなるのも不思議じゃない。


「おお、忘れるところであった。千秋、お主の為に茶菓子を用意したのだ。行くぞ、幸村、佐助」
「茶菓子!わあ、嬉しいです!っあ、でも、よろしいのですか?わたしなどが武田様と幸村様と共にお茶をするなんて……」
「何を今更なことを言うておる。儂が良いと言うのだから良い。行くぞ」
「……ありがとうございます、武田様。では御言葉に甘えて、お供させていただきます」

そうして、彼らと共にお茶と茶菓子を頂く。
幸村は驚異的な速度で茶菓子をいくつも平らげていて、それを慣れたように男が叱り、信玄公は快活に笑っていた。
あたしは大人しく、小さな口で茶菓子を食しながら、そんな光景を眺める。


(――…懐かしい)


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