あたしと俺の今4


「そうだねえ、しいて言うなら……忍、かな」

悪い方向に進むよう敢えて言葉を選べば、男の殺気が増した。あたしの全身を包む、闇のような気配。どろりとした粘度を持った、落とすのには苦心しそうな殺意だった。

「アンタって忍の癖に、感情豊かだよね」

今にも首を掻き斬ってきそうな男に向けて、へらへらと笑う。
あたしの笑顔には何の意味も無いことくらい、男にもわかっているんだろう。だから余計に腹が立つのか、歯を食いしばる音が聞こえた。歯軋りの音って何でこんな耳障りなんだろうね。

あの子の歯軋りも五月蠅かったなー。


「なんてことはない、道具であることを捨てて、人になることを望んで、眩しい光に導いてもらった馬鹿な女だよ、あたしは。
 道具であることを辞めた道具なんて、使い物にもなりゃしない。導いてくれる人もいなくなった。自分の使い方も、使われ方も解らなくなった、前も後ろも見えない駄々っ子。

 そんな女を、警戒したって意味ないよー?…佐助ちゃん」


けろりと笑ってみせる。男は歯を食いしばったままの表情で、ただただあたしを睨んでいた。
その瞳に映るあたしの姿。
いやーほんと参っちゃうね、どうやらあたしとアンタは本当にそっくりさんみたいだ。

男は暫し沈黙を保ち、そして、クナイを静かにしまった。
それに反応をするでもなく、あたしはにこにこと男を眺める。
わかっているんだろう、男にも。自分と目の前の女が似通っていることが。


「いっこだけ解った。俺様、アンタのこと大っ嫌い」
「さざれちゃん傷付くう。あたしはアンタのこと割と好きだけど!きゃっ言っちゃった!」
「早く千秋の中から出てってくんない」
「一世一代の告白シカトぶっこくとか酷い」

くすん、と泣き声だけを無駄に漏らす。
無意味と知ってても遊びたくなるのはもうあたしの癖みたいなもんだ、しかたない。

「……俺を道具じゃなくしたのは、千秋なんだ。それを失うのがどういう意味を持つか、アンタなら解るんだろ」

一文字一文字を大切に扱うかのように、男は溜息混じりに呟いた。


わかるけど、わかんないな。
そんな大切なモノをこんなとこに閉じこめて、自己満足の世界でしか生きられないような男の気持ちは。


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