あたしの過去1


さざれと言う名前は、最初にあたしを拾った女がつけてくれた名前だった。
女は、わかりやすく言うなら闇・裏と呼ばれる世界で生きていて、必然的にあたしもそこで生きることとなる。

女の仕事は、あちらこちらに散らばる多様なグループに一員として潜り込み、情報を取得、他の者に金で売ることだった。場合によっては人の命も奪い、グループを壊滅にも追い込む。
情報屋、暗殺者、呼び方なんてのは何でもいい。
金の為だけに全てを売る。
それが女の仕事。そして、あたしの仕事だった。


 *


「ねーさーん、昨日のお仕事はどうかと思うんだよねーあたし。あそこ払い悪いじゃん、標的のが高い金額示してたじゃん」

一度だけ、女が金の為以外の目的で動いていたことがあった。それは女の死因にも繋がる行動だった。

女はあたしの言葉にからからと笑い、「馬鹿ねえアンタは」と呟いた。
理由を話しはしなかった。それだけだった。

あたしはとりあえずのところ、依頼人と女がイイ仲だったんだろうというゲスな勘繰りだけで済ませて、話を切り上げる。
女がああやって笑う時は、何も話してはくれないと経験として知っていたからだった。
別に、理由を聞いていたからといって未来は変わり得なかっただろう。なら、あたしはそれらをどうでもいいと切り捨てる。女にそう教えられたからだ。


二月後、女は件の依頼者が在籍する集団と共に、小さなホテルで焼け死んだ。
あたしの知らないところで行動していた女の、呆気ない末路だった。
後に調べたところでは、報復の線が濃いように思える。そこに何故女が混ざっていたのかは知らない。知ろうとも思わない。

道具であるはずの存在が、道具には持ち得ないはずの感情を抱いた結果がそれなのだと、その時のあたしは理解した。
道具は道具のままでいい。九十九神になどならなくていい。ましてや人になど、なり得るわけがない。

それを教えてくれたのは女だったはずなのに、何故女は道具であることを捨てたのか。
それだけは気になったけれど、所詮はそれだけだった。


 *


女が死に、以降あたしは一人で生きていくこととなる。

女のおかげで仕事のコネはいくつもあった。生活に困らない程度の家事能力も知識も得ていた。
十をいくらか過ぎただけの子供でも、生きる程度の事なら一人で出来る。
なんなら他人の命を奪うことでも。他人の生活を壊すことでも。何でも。
強いて困ることをあげるとするならば、十幾つかの子供では一部の者にしか色仕掛けがきかないってことか。まあでも、その程度のことでしか困りはしなかった。


そんなあたしの暗ぁい生活に光をさしたのは、二人の男だった。
あたしが十七の時の事である。



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