あたしと俺の今8


男が来なくなって二日。あたしは屋敷の門をぺちぺちと叩いて、溜息をついていた。

門は開いている。あたしがさっき開けた。
それ自体は呆気なく開いたのだ。だけどそっからが問題だった。

「結界、ってか……?」

さっきからぺちぺちと叩いているのは、何も無い空間。何もないのに、手応えはある。
押せど叩けど何の意味もないその透明な壁は、まさしく結界と言うものだろうと思えた。戦国時代の忍ってほんと便利だと思う。これさえあれば家屋に虫が侵入するのも拒めるんじゃなかろうか。


さて、困ったなあ。

あたしは此処を出たいんだ。出て、行かなきゃいけないところがある。あの男が帰ってくるより前に。
とは言え、あたしに結界を破る術なんてものはない。
ものは試しと「解!」とか叫んでみたけれど、妙に恥ずかしい思いをしただけだった。周囲に人がいないのを喜べばいいのか、いっそ誰かにツッコんで欲しかったと思えばいいのか。ツッコミがいないってつらいよねえ。


どっかに抜け道は無いだろうかと、屋敷をぐるりと一周する。
と、屋敷の四隅に香炉のようなものが置かれていることに気が付いた。近寄って軽く嗅いでみれば、甘ったるい匂いが鼻をつく。
うえぇと顔を顰めて、その香炉を手に取った。瞬間。

「……うん?」

ざあっと大きな風が吹く。どこからか、今までは聞いたこともない動物の鳴き声が聞こえてきて、もしかして、と香炉をその場に投げ捨て門へと走った。

「結界破れてるじゃーん!さざれちゃん天才ー!」

完全に偶然の産物だったことくらいは自覚しているが、そう思わざるを得ない。

にしても、大した結界じゃなかったんだなーと感じる。
あんな、何がきっかけで倒れるかもわからないような香炉を軸にした結界で、あの男は千秋ちゃんをいつまでも縛り続けておくつもりだったんだろうか。
それとも心のどこかで、逃げてくれることを望んでいたのか。

まあそんなことはどうでもいっか。

すたこらさっさと一旦部屋へ戻り、動きやすい格好に着替える。
男の足で大凡三時間半ほどの道のりだった。今のあたしでは五時間以上はかかると思っていいだろう。
道は覚えている。問題ない。

男の忍装束だと思われる衣服を身に纏い、水や干し飯を容器に詰めて屋敷を出る。
日が落ちた頃には辿り着けるだろう。希望的観測にすぎないが、あたしは自分の記憶力を疑わない。問題があるとすれば、この一月で千秋ちゃんの身体をどれだけ鍛えられたかってことくらいだ。
それも、まあさほど問題は無いだろう。おそらく。

屋敷の外はすぐに森となっている。
男みたいに樹の上をひょいひょい跳んでいくことはさすがのあたしでも出来ないので、地道に走り出した。


さてさて、これからどうなるか。


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