俺の過去2 俺は、千秋を俺のモノだけにしたかったんだと思う。 誰にも見せたくない。誰にも触らせたくない。俺以外の誰とも、空気を共有してほしくない。俺だけに笑顔を向けて、俺だけに触れて、俺だけと話してほしい。 きっと、ずっと、そう思ってたんだ。 「千秋。千秋は俺様が建てさせた屋敷で暮らすんだ。もう女中仕事なんてしなくていいんだよ。水仕事で手を荒らす必要もない、重い荷を運ぶ必要もない。千秋が俺様の為だけに生きていてくれれば、それでいいんだ」 だからそう告げた。俺なりに、言葉を選んだつもりだった。 それで千秋が、嬉しそうに微笑んで、わかったと頷いてくれたのなら。それで全部が丸く収まるはずだったんだ。 俺の、こんなしょうもない、独占欲も。 「……何、を言ってるの?佐助……、わたしは、幸村様や武田様、佐助の力になりたくて、此処にいるんだよ……?それに、そんな……屋敷だなんて、」 だけど千秋は、そんな俺の言葉を、受け止めてはくれなかった。 困惑気味に揺れる瞳。微かに震える唇。身を守るように胸元へと添えられた両手。 いつもなら最後に笑みを模るはずの「さすけ」の音は、怯えているせいか、口端を上げはしなかった。 それが、俺には、耐えられなかった。 * 気を失った千秋を屋敷へと連れて行き、屋敷に結界を張る。 俺以外の存在が出入りできない結界。千秋すらも、外に出ることは出来ない。 間違ったことをしている自覚はあった。こんなことをして、千秋が笑ってくれるだなんて思ってはいなかった。 だけど、自分を止めることはできなくて。 俺を道具であり人でもある存在にしてくれたのは、大将と旦那だけど。 俺を、感情のある人間にしてくれたのは千秋だから。それを喪うのがただひたすらに怖かった。 感情を知ってしまった道具が、人になってしまったら、それはもう道具としての働きを持たない。 それでも千秋がいてくれるなら、俺は千秋の前でだけは人でいられて、他の場所では道具に徹することができた。 なのに、その千秋がいなくなってしまったら。俺から離れていってしまったら。もし、あのまま城に置き続けて、いつか誰かに傷付けられてしまったら。 そんなもしもは起きて欲しくなかった。起きてはいけないものだった。 目を覚ました千秋は、もう俺に笑みを向けてはくれなかった。 あの、はにかむような愛らしい笑みは。俺の名を呼ぶときの、優しい笑みは。 俺の思い出の中だけで俺を導く、柔らかな光としてしか、遺らなかった。 ← → 戻 |