勘違いハプニング
天気が良い。
あったかい日差しにうつらうつらしながら縁側を歩く。
やらなきゃいけないことは粗方やり終えたし、これから何しようかなー。
どうせまた書類整理してんだろう土方の部屋にでも行くか、午後から市中見廻りだっつってた沖田についてくか。
でもやっぱり眠いし自分の部屋で昼寝でもするかなあ…うーん悩む。
そんなことを考えながら歩いていたせいか、何かに躓いた。うおう転ける。
「うわぶっ」
「おっと、大丈夫か?」
転けたあたしをナイスキャッチしてくれたのは近藤さん。
すみませんと謝りながら起きあがり、あたしを引っかけた正体に目をやる。
…何でこんなとこにジャスタウェイ転がってんだよと。
眉間に皺を寄せながら、近藤さんに肩を預けたままだったあたしの耳に絶叫が聞こえてきたのは、その直後だった。
「ぬああああ史紀!!お前私の近藤さんに何しとんじゃァァァァアア!!!」
「やっべ」
舌をぺろりと出しながら近藤さんから手を離す。
それと同時に、少し離れたトコから猛ダッシュでこっちに向かってきた千果にタックルされた。痛い。
「今のちゅー!?ちゅーしてたよね!!?ちゅーだよねええええ!?ふざっけんなよォォオ私もまだしてないのにィィイ」
いやしてないし。
どうやら角度の所為か千果にはあたしと近藤さんがちゅーしてるように見えたらしい。いやさすがに近藤さんにまで手ぇ出さないよあたし。
女がいる男には手を出さない主義なんで。
あたしの襟元を掴み、小さい体のどっから出てくるのかわからん腕力でぶんぶんと体を揺すられる。うえええ脳内ミックス。
近藤さんは近藤さんでおろおろしてるし。
しっかりしてくださいよ近藤さん。頼みますよ。
「とりあえず千果…っ落ち着け…!」
「うがああああ私の近藤さんに手ぇ出しやがってえええ!!」
あ、だめだ。聞こえてないわ。もう自分の世界入ってら。
相変わらずぶんぶん揺すられるまま、とうとう千果を落ち着かせようと動き出した近藤さんにグーパンチをお見舞いした。
「あっ近藤さんナイキャッチありがとうございましたー」
「ぶべらっ」
恨みはないけど今あなた入ってきても何も出来ないんですんません。今度バナナあげるから許して。
「近藤さんの唇はどうだったァァア柔らかかったのか硬かったのかァァア!!」
「それはともかくとして山崎さー、まじ可愛いよね?あの可愛さって本当犯罪だと思わない?」
「史紀ってば酷いよ!私が近藤さんのこと好きなの知ってるくせにィィィイ」
「でも可愛いって言われるのは男的に微妙じゃん?だからかっこいいねって言うしかないんだけどさ、でもやっぱ可愛いのは事実じゃん。もうあたしどうしたらいいのやらっていうか山崎はあたしをどうしたいんだろうね?まじ天使…小悪魔…好き…」
「近藤さんとちゅーしてどうするつもりだったんだお前はァァア!目的は立場か!金か!それなら土方でも別にいいだろうがァァア!!」
敢えて言葉のキャッチボールしなかったあたしが言うのもなんだけど、なんだこの会話。
千果が話聞いてないのを良いことに久々に山崎語りできてあたしはスッキリだけども。
それからもうがあああとキレ続ける千果相手に山崎の話をし続けていたら、スパーン!とすぐ近くの襖が勢いよく開いた。
この屯所の襖や障子はいつも勢いよく開くな。
「うるせェェェェエエエ!お前ら何騒いでんだ!!」
「……」
「……」
ここ、土方の部屋の近くだったのか。
土方の登場と同時に真顔に戻った千果が、くるりとあたしに背を向けて近藤さんの吹っ飛んでいった方向へと走り出した。
「はーあ、昼寝してこよ」
「近藤さぁん、大丈夫ですかー?」
「え、なに、何でいきなり冷めるんだよお前ら!そんなに俺のことが嫌いかコラァァア」
(俺お前らになんかしたか?)(私の邪魔)
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