暮れない記憶5



屯所内に失礼すれば、目の前には予想外の光景が広がっていた。
ぐすぐすと泣いている近藤さん、千果を抱き上げてぐるぐる回っているとっつぁん、満面の笑みの千果。うん、まあそこまではいい。なんとなく察せるから。
ただその周りに、5〜6人の隊士が袴?道着?姿で倒れているのはどういうことか。

「…千果?」
「あっ史紀来たー!おっそいよもう」

恐る恐る声をかければ、とっつぁんの手の中からぴょいんと飛び降りた千果が駆け寄ってくる。
そして「さっき話した私の友達!史紀です」と紹介され、軽く頭を下げた。紹介より先にこの状況の説明をして欲しいんですけども。

「君が千果ちゃんの言ってた、一緒に逃げてきた子か!大変だったね、ここにくればもう大丈夫だからな…!」
「は、はあ、ありがとうございます…?」

まだ泣いている近藤さんに、背中をばしばし叩かれる。痛い。
松平公も「大変だったなァ、千果の友人ならお前も俺の娘みてぇなもんだ。いくらでもパパを頼ってくれ」と頭を撫でられ、うん、まあそれはいい。
千果のドヤ顔が若干いらつくが、それもまあいい。

「それより、この倒れてる隊士さん方はいったい」
「ああそれね、私がやったの」
「っハア!?」

すっげえ声出た。いやだって仮にも真選組隊士を?今まで体育の剣道くらいしかしたことない千果が?倒した?WHATだしWHYだわ。何が起きた。

「真選組に入るならそれなりに戦えなきゃって、とっつぁんが言うから。木刀借りて、隊士と撃ち合いした結果がこれだよ!」
「ドヤ顔うぜえ。…え、まじで?」

トリップ特典でいろいろ上がってるみたい、と小声で耳打ちされる。はあんなるほど。
そういや適当にいじっとくとか言ってたなあのエセ関西弁。
じゃああたしもそれなりに体力上がってるんだろうか。
それを確認する術は、まだ無い。

まあなんやかんやで真選組には世話になれるようだし、ありがたいこった。


――…


松平公と近藤さんから説明を聞いた目前の男、土方はものすごおく怪訝そうな顔であたしと千果を見ていた。煙草くせえ。

「こんな戸籍もねェどこの馬の骨ともわかんねーような女の、しかもガキ2人をうちに入れてどうするってんだ」
「大丈夫だトシ!千果ちゃんはとても強い、総悟と同じくらいにな!それに史紀ちゃんは事務関連の仕事は得意だそうだ。お前の負担も減るぞ」
「そうだよ大丈夫だよトシ」
「お前にトシとか言われたくねーんだよチビ!」
「誰がチビか!」
「いやお前だよ千果」

土方の言い分はもっともである。不確定要素はなるべく排除したいよねえ。わかるよその気持ち。わかるだけだけど。
でもあたしらもここにいさせてもらわなきゃ人生やばいんで。てか松平公と近藤さんが首を縦に振ってんだからこれもう決定事項じゃん?

「トシが2人の事を不安に思う気持ちもわかる。だから、2人はトシ直属の特別部隊としてここにいてもらうことにした」

顔を顰めたのは、あたしと千果と土方、3人共だった。理由は3人とも違うだろうけど。
あたしは、えっなにそれめんどくさい、の顔。千果は多分、近藤さんのそばじゃないの!?って顔。
土方は、わからん。わからんけどまあ、嫌なんだろう。面倒事って背負い込みたくないよね。

何かを言おうとしたが、土方の言葉は近藤さんに遮られた。なんか意外とごり押すなこの人。ゴリラだけにか。

「まあなにはともあれもうとっつぁんが決めちまったことだ!頼んだぞ、トシ!」
「…チッ……はあ、わかったよ」

仕方なしに、本っ当に不服そうにだけど、土方は頷いた。
つまり今日からあたしと千果は土方の部下ってことか。なるほどな。
心の底で思った「めんどくせえ」の言葉は思わなかったことにし、土方へ視線を向ける。

「今日からよろしくお願いします」
「…余計なマネはすんなよ」
「肝に銘じておきます」

軽く笑う。その時がらりとふすまが開いて、数人の隊士が局長室に入ってきた。
先頭は、沖田。あっ後ろの方に山崎いる。2人ともかわいい!!特に山崎本物!めっちゃかわいい!!好きです結婚してください!

「そいつらがとっつぁんの言ってた新入隊士ですかィ」
「ああ、総悟も仲良くしてやってくれ!2人とも可哀相な生い立ちなんだ…」

再び涙ぐむ近藤さん。どんだけ涙もろいのあなた。

「川崎史紀です」
「私は遠藤千果でっす!」

頭を下げれば、入ってきた隊士達も各々自己紹介をしてくれた。若干名、訝しげではあるが。

「山崎、部屋に案内してやれ。あいてる部屋あっただろ」
「お、俺ですか!?わかりました…」

こっちですと案内してくれる山崎の後を追い、一礼をしてから局長室を出る。
千果と2人、山崎の後ろを歩いていれば山崎は前を向いたまま話し始めた。

「局長から話は聞きました。大変だったようで…あまり無理はしないでくださいね、お二人とも」
「ありがとうございます、山崎さん」
「、もう名前覚えてくれたんですか?」

驚いたように、山崎が振り返る。覚えるもなにも最初から知ってるし大好きです結婚してください、…とは言えず、「さっき聞いたばかりですから」と微笑んだ。全力でネコを被るよあたしは。
山崎はちょっとだけ嬉しそうに顔を赤くさせ、苦笑する。

「俺、地味だ地味だってまともに名前覚えられるの少なくて…だからちょっと、嬉しいです」
「地味…ですか。山崎さん、かっこいいと思うけどな」

あっすみませんいきなり!なんて謝ってみせる。千果がすげえ顔でこっち見てたから軽く足を踏んでおいた。変な叫び声上げてた。

「ありがとうございます、川崎さん」
「名前でいいですよ、そっちの方が嬉しいです」
「…え、と…じゃあ、史紀さん」

自然と口角が上がる。あああもう山崎やっぱりほんっと可愛い!愛してる!照れてんのかほっぺぽりぽりかく仕草がまたたまんねえ!ありがとうございますはこっちのセリフだわ!

「あ、部屋ここです。遠藤さんはお隣のこっちで」
「私も名前でいいよージミー」
「ジミーってそれ俺のことですか!?」
「オイ千果山崎さんのことけなすなよ踏むぞ」
「もう踏んでるよ史紀!」


そんなこんなで、あたし達は真選組に入った。
部屋をもらい、隊に入れてもらい、数日後には松平公から隊服を受け取り。更に数日後には近藤さんから刀を渡された。
真剣を手にするのは人生初で、いつかこの刀で人を斬らなきゃならんのだろうかとか、まあいろいろ思いもしたけれど。刀身に掘られた花びらは綺麗で。

「おい史紀、テメエのこの文字の下手さどうにかなんねーのか」
「筆で書かすからいけんのですよ、ボールペンならめっちゃ綺麗だからなあたしの字」
「元から字ィ綺麗な奴は何で書いても綺麗なんだよ」
「そういう土方は無駄に字ィ綺麗で羨ましいこってすわー」
「てめえ上司を呼び捨てにしてんじゃねェよ、おい聞いてんのか、オイ」

なんだかんだ、周りとも良くやれてると思うし。

これからこの幸せな景色を、もっと楽しくして行きたいなって。
そう思った日を、あたしは忘れないと思う。



(山崎へのラブレターなら綺麗に書ける)(なら書類もラブレターだと思え)

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