暮れない記憶4



その後、やってきた新八くんと起きてきた神楽ちゃん、銀時と、あたしが叩き起こした千果とで朝ご飯を食べた。
「万事屋でこんなまともな朝ご飯を食べる日が来るとは思いませんでしたよ」と涙をうっすら浮かべていた新八君には大げさだろうと思いもしたが。え、結構まともなご飯食べてる時もなかったっけ…気のせい…?卵かけご飯のイメージは強いけども。

「そんで、今日うちらどーすんの?」

朝食を食べ終え、新八君が食器を片付けてくれている途中、千果が呟く。
本当にどうすんのかね、このまま万事屋の世話になんのはさすがに無理ありそうだし。金銭的な意味で。

「僕考えたんですけど、やっぱり真選組に行くのが一番じゃないですか?ああ見えて一応、警察ですし」
「チンピラだけどな」
「あんなのマヨラーとストーカーとサドしかいないネ!そんなとこに千果を連れてくなんて危険アル」
「あれ神楽ちゃん、あたしは?」
「史紀はどこででも生きていけそうアル」

なんか切ない。

しかしまあ、真選組か。それは一理ある。行きたいっちゃー行きたいし、確かにあそこなら衣食住に加え仕事もさせてもらえそうだ。うまく行けば、だけど。
ちらと千果に目を向ければキラッキラ輝いた目で首を折れるんじゃねーかってくらい縦に振っていた。ああ、近藤さんに会いたいんですねわかります。

「うん、じゃあまあ真選組、行ってみよっか…」
「やったァァア私この格好でも大丈夫かな!かわいい!?」
「はいかわいいかわいい」
「史紀適当すぎ!」

いやほんとお前、意外にもチャイナ服似合ってるよ。意外といけるよ。まあその格好で真選組行ったら確実に万事屋関係の人間だって思われるだろうけどな。
…あたしの格好も大概だった。

「んじゃ後で俺が連れてくわ」
「ほんと何から何まですんません…」
「そう思うならまた朝飯作りに来てくれや」

ぽすんとまた、頭を撫でられる。つい照れてしまった。くそう銀時まじ好き…。

「史紀赤くなってるネ、銀ちゃんごときに照れたアルか?」
「ごときって何だよオイ」
「いや銀時かっこいいからつい、ついね」
「……」
「……」
「新八くん神楽ちゃん、その何言ってんだコイツ…みたいな目ぇやめて、地味につらい」

銀さんは銀さんで、隣で「やだなーもーかっこいいとか当然な事言っちゃってー」なんて照れていた。アホかと思ってごめんね。


――…


「銀時と千果は先行ってて、あたしコンビニ寄ってくから」

無理矢理3人で原付に乗って進んでいた道中、信号で止まったタイミングで見つけたコンビニに向かうため原付から降りる。
2人はびっくりしてたけど、信号が青になったからそのまま進んでいった。ひらひらと手を振って、見送る。

姿が見えなくなってから、すぐさまコンビニに向かいレジで煙草コーナーを見つめた。あたしの好きな銘柄はあるだろうか。…あった!なんか名前微妙に違うけどあった!多分あれだ!

「すみません、147番2つ」
「はい。…こちらで間違いないですか?」
「はい」

運良く年確されなかったのでそのまま購入。年齢確認されても身分証無いからどうしようもねーしな!お偉いさんと仲良くなったら戸籍作れないだろうか。1つ年齢ごまかして。

店員さんのありがとうございましたーって声を聞きながら、外に出る。店外に設置された喫煙所の前で煙草の封を切り、1本取り出す。ライターだけは何故か持ってたので火をつけ、1日2日ぶりの煙を肺いっぱいに吸い込んだ。うええやにくら。

「でもうっま…」

やっぱ煙草無いと生きてけないわ。ちゃんと元の世界で吸ってたのと同じ味だし、良かった…。今度気が向いたらマヨボロ買ってみよ。でもあたしメンソのが好きなんだよなー、なんて。
考えつつ煙草を吸っていたら、見覚えのある原付がコンビニの前で停まった。ヘルメットの下に覗く顔は、さきほど見送ったそれである。

「なにおまえ、煙草吸うようなキャラなの」
「そこまで顔顰めんでも」

四分の一ほどが灰に変わった煙草をトントンと軽く叩き、灰を落とす。
銀さんはあたしの隣に原付をとめ、ハンドルに肘を置きあたしを見上げた。

「んなもん吸ってたら体壊すぞー」
「もうウン年来の付き合いなんでやめるのは無理っすねー」
「ウン年来ておま、今朝二十歳だっつってたろ」
「……てへぺろ?」

アホかと頭を叩かれた。

「つか何で銀さんここに?」
「何でここに?じゃねーよ。史紀、真選組までの道わかんのか」
「ああ、なるほろ」

確かにわかんねーわ。あたしは一体この後どうするつもりだったのか。
そんなあたしの為に、千果を屯所前におろした後わざわざここまで迎えに来てくれたらしい。やだ銀ちゃん優しい、惚れそう。惚れてた。

吸い終えた煙草を吸い殻入れに投げ捨て、銀時に笑みを向ける。

「銀時は優しーね」
「バーカ、男は下心がねえと優しくなんない生き物だぞ」

にやりとした表情。その言葉を数秒かけて飲み込み、うん?と眉を寄せた。

「下心あんの?」

またアホかって叩かれた。さっきより痛かったんですけどちょっと。おい。
ぽいと投げ渡されたヘルメットを受け取り、かぶる。失礼しまーすと銀時の原付に乗れば、原付はゆっくりと進み出した。道に出て、銀さんの腰を掴んだまま、さっきの言葉を脳内で反芻する。

ううん、でもフラグ立つにはあまりにも早過ぎやしないだろうか。トリップ特典?だとしたらちょっと気味が悪い。まあ別に気にはしないけども。
銀さんだけならともかく、仮に逆ハー属性とかつけられてたら笑うな。そん時はあの氷月とか言う神様一発殴りたい所存。

ぼんやりしていたら真選組の屯所についたらしい。
思ったより遠くなくてびっくりした。

「ありがと、銀さん。またお礼しに行くね」
「おー。…なあ、史紀」
「うん?、ん?」

軽く、本当に軽く、唇が触れた。びっくり。
目を丸くするあたしに、銀時はまたにんまりといやらしく笑って、あたしの頬をつねる。痛いんですけど。

「いやァ俺そういうのは信じてなかったタチなんだけどよ」
「は?」
「…一目惚れ。ま、考えといてくれや」
「……え、お、おう」

ここで顔赤くなったり、パニクったりしないあたりがさすが自分、というか。
いやまあ嬉しいのは本当なんだけど、なんかいきなりすぎてそこまで思考が行かなかった。…これまじでトリップ特典とか言わねえよな?人間不信になるぞ。

銀時は言うだけ言って、帰って行った。とりあえずあたしの返事きけよ。返事っていうか話っていうか。いやいいんだけどさー!
ため息をついて、屯所へと視線を向ける。

中から聞こえてきたのは、近藤さんと松平公、そして千果の心底楽しそうな声だった。



(お前は今日から俺の娘だ!!)(わあいとっつぁん大好きー!)(…どゆこと)

 
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