イイコの理想5


千果視点


あれから一週間、かな。それくらい経った。
近藤さんはゴリラ星の姫だかなんだか知らないけどあのビッグゴリラウーマンとのお見合いを見事成功させたそうで。おかしいよねえ私というものがありながら。

んで、お妙さんと九ちゃんとの事も、原作通り無事に解決したらしい。
土方はミイラ男になって、沖田は右足を骨折させて、近藤さんはケツを血まみれにして帰ってきた。近藤さんが誰よりも大怪我すぎて私心配です。

そんでもって、今日がその披露宴とやらの日で。

私も珍しく、とっつぁんが持ってきてくれた着物を着て割と正装なんだけども。
…うん。とっつぁんにも私が近藤さんラブなことをきっちりしっかり伝えておくべきだった。そこを怠ったから今日という日が来てしまったんだ。ちくしょう。
何が楽しくて好きな人の披露宴に出なきゃならんというのか。まあ結局壊れるからいいんだけどさあ。近藤さんは朝から忙しそうで話す機会も無いし。クソッ。思わず口悪くなるわ。

「沖田ぁ、私ほんとーに行かなきゃだめ?昼ドラみたいな心境なんだけど」
「いっそ昼ドラにしちまえばいいんじゃないですかィ?」
「めっちゃ他人事だな。だって近藤さん困らせたくないんだもん」

むっすぅ、とほっぺを膨らませる。んな顔したってかわいくねーやと笑われた。こんにゃろう。
けれどすぐに沖田は笑いを引っ込めて、私の頭をスコーンと叩く。

「えっ痛いんだけど!?」
「千果は変なとこでバカすぎでさァ」
「史紀と一緒にしないでくんない…」
「まだ史紀のが利口ですぜィ、こういうとこは」

どういうことだってばよ。余計にほっぺを膨らませる。

「女の言うわがままなんて可愛いモンでさァ、特に千果みたいな、ちっちゃい女ならねィ」
「ちっちゃくないよ!」
「いい加減自分の身長を認めなせェ」

膨らませていたほっぺを元に戻して、ため息。
ちょっと悩んで、…いっぱい悩んで、1つだけ。1つだけを、問いかけた。

「本当に、近藤さん、…困らない?」
「千果が好きになったのは、そんくらいで困るような男なんですかィ」

違う、ね。私の答えを聞いて、沖田は満足そうに笑った。
差し出された手をとって、立ち上がる。
だけど。べしん、松葉杖で唐突に叩かれた。沖田優しいなあと思えばこれだよ!

「いつも近藤さん近藤さんうるせえ千果が、うじうじしてんじゃねーや」

もう一度、背中を叩かれる。おお、背中は帯あるからそんな痛くなかったぞ!たまには着物ちゃんと着るのもありだな。
私があまり痛くなさそうにしてたのが不服だったのか、今度は膝裏辺りを膝カックンの要領で殴られた。そのままこけた。
沖田おまえ絶対許さないかんな!!


――…


沖田たちとは遅れて、披露宴会場へ向かう。
お妙さんが来る前に、私が。近藤さんを助けるの。
原作なんて知らない。他の誰かの迷惑なんて知らない。近藤さんが私を見てくれれば、近藤さんの意識がほんのちょっとでも私に向いてくれれば。それだけでいい。

その願望を現実にするためなら、イイコになんて、なれなくていい。


バンッ、と勢いよく、会場の扉を開けた。
とっつぁんにもらった着物は脱いだ。今の私にあんな綺麗な格好は似合わないから。

真っ黒な、真選組の隊服を着て。スカートの裾からは薄いピンクのフリルをちらつかせて。絶対領域が少しだけ見えるオーバーニーを履いて。リボンの形に結んだスカーフを揺らして。黒のショートブーツで、地面を蹴る。

「その披露宴、待ったァァア!」

それっぽく叫んで、刀をかまえる。シーンはちょうど、バナナ入刀のとこかな?
あはは、おっかしいなあ、近藤さんとバナナ入刀すんのは私なのにね!

「私でさえまだ近藤さんと既成事実すら作ってないのにぽっと出のゴリラ女が近藤さんとバナナ入刀だとかほんっと世の中ふざけてるよねえ、それならまだお妙さんのが全然許せるわ」
「あら千果ちゃん、それだけは勘弁してくださる?」

ちょうど現れたお妙さんが、近藤さんに長刀を投げつける。
ゴリラ女へダイブしそうだった近藤さんはそのまま壁に縫いつけられて、きょとんとしていた。そんな近藤さんへにっこり、笑みを向ける。

「お妙さん、私の将来の旦那さんに、あまり手荒な事しないでくださいよ」
「それはごめんなさいね、でも将来の旦那さんならちゃんと手綱握っといていただけるかしら」
「うん、そうだね。…私、近藤さんのこと愛してるもんっ!」

会場中に、近藤さんに、聞こえるように大きな声で。
近藤さんが驚いたように目を丸くさせていた。そんなとこもかわいいですね近藤さん。

暴れ出したゴリラ女とゴリラ軍団を蹴散らし、近藤さんの元へ走る。
直前で襲いかかってきたゴリラ女を、回し蹴りで地に落とす。地面に伏したゴリラ女の上から飛び退いて、近藤さんの服にひっかかった長刀を壁から引き抜いた。
落ちていく近藤さんを姫抱きでかかえ、無事着地。いやートリップ特典で体力上がってて良かったわー。

「大丈夫ですか?近藤さん」
「千果、ちゃん…何で、」

何が起きたのかわかってない、って感じの顔ですね。
そんな近藤さんに笑みが漏れる。

「だって私、待ってるだけのイイコちゃんのままじゃ、いられないですもん」

近藤さんの手を取り、走り出す。
会場はもうてんやわんやの大騒ぎで、きっとこんな状況じゃ何が起きても、誰もわかんないからいいよね?

ぴょんと軽く跳んで、近藤さんのほっぺにちゅーをする。

「やっぱり好きな人は、自分から捕まえに行かなきゃ!」

近藤さんは、顔を真っ赤にして。泣きそうな笑顔で、私を見下ろしていた。



(ああ、そうだな)(わかったよ、俺も)

 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -