喧嘩は江戸の花4



泣き声が聞こえてきたのは、あとちょっとで万事屋につく、ってところでだった。
俯かせていた顔をあげる。
ひっくひっく、ぐす、としゃくりあげて鼻水をすすりながら、歩いている、千果が見えた。…今、深夜の3時過ぎだぞ。こんな時間に1人で何してんだこいつ。つーかなんで泣いてんの?なんかあったの?
軽く慌てながら、喧嘩したことなんて忘れて千果に駆け寄る。
足音に気付いた千果が、視線をあたしに向けた。

「千果、何して…っ」
「うわあああん史紀いたああああ」

涙声で叫びながら、抱きつかれる。
目を丸くしつつも千果を抱きとめた。いよいよもって大声で、千果は泣いている。

「近藤さんに史紀の事きいて、ひっぐ、私の勘違いで史紀にひどいこと言っちゃったから、謝んなきゃって、なのに史紀携帯ならしても全然出てくんないし、沖田や山崎にもかけてもらったのに、っぐす、出ないし、万事屋いんのかなって思ったから行ったのに誰もいないし、ひっく、飲みに行ったのかと思って、ここら辺の居酒屋いっぱい探したのに、みつかんなくてっ、ぅえ、史紀いなぐなっぢゃっだのかど思ったああああ」
「長い長い長い、落ち着け千果。あたしはちゃんといるから」

ぽんぽんと、頭ひとつ分小さい頭を撫でた。

そういえば携帯サイレントにしてたわとそこで思い出して、着歴を見るのが怖くなる。
あとで沖田と山崎にも謝んなきゃいけないのか…。

千果はまだぐすぐすと鼻を鳴らしている。
いい加減泣きやめよ、と軽く頭をはたいた。千果はひっく、ともうひとつ嗚咽を溢す。

「あー…その、あれだ。……ごめん、いろいろ、」
「ううん、ごめんね。私こそごめん。勘違いして、史紀にひどいこと、いっぱい言った」
「…いいよ、これで終わり。仲直りだ、千果」

千果の体を引き離し、目を合わせる。
同じタイミングで、2人して笑みを浮かべた。そのまま声を上げて、笑う。

「こんな喧嘩したの何年ぶりだよ」
「最後にやったの高校ん時じゃない?イチゴオレとカフェオレ間違えて買ってきた私に史紀がブチギレたやつ」
「っあー懐かしいなそれ。つーかそんなんでキレるとか短気にも程があんだろあたし」

ひとしきり笑い終えて、目尻に浮かんだ涙をぬぐう。

後ろでそんなあたし達を眺めていた銀時にくるりと振り返って、笑みを向けた。
安心したような気の抜けたような、微妙な表情で銀時はあたしを見ていた。

「というわけで、仲直りしました!銀さん迷惑かけてごめんね」
「おー…まあ、良かったんじゃねえの」

ゆっくり近付いてきた銀さんに、ぽん、と頭を撫でられる。千果もだ。
きょとんとした表情の千果に銀さんはにやりと笑う。悪い顔。
「次喧嘩したら、史紀は返さねーからな」と冗談めかして告げて。「んじゃ俺は帰らぁ、お前らも気をつけて帰れよ」と後ろ手に手を振りながら、銀さんは帰っていった。
その背中を見送って、小さく息を吐く。

「帰るか、千果。近藤さんも心配してんだろ、お前がこんな時間にぶらついてたら」
「子供じゃないんだから大丈夫だよ、史紀」
「…それもそうだ」

屯所へ向かいながら、携帯を開く。
沖田からの着信が4件。山崎からの着信が2件。千果からの着信は7件残っていた。
ああそうだ、山崎にはお茶のことも謝らなきゃ。…今日は謝り倒す日だなあ。自業自得だけれど。

「やっぱ喧嘩なんかするもんじゃねーわ」
「史紀が短気なおせば大丈夫だよ」
「千果が早とちり癖なおせば、どうにかなるかもな」
「……」
「…黙んなよ、ガチみてえじゃねーか」

一拍をあけて、また、笑った。



(女の友情に、男は立ち入れねえわ)

 
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