喧嘩は江戸の花3



真選組を出てきたとこであたしが行ける場所なんか限られてるわけで。
結局万事屋にやって来てすぐになにも告げず銀時の寝室でふて寝をしているわけなのだ。

なんか変な口調になった。

「史紀さん、一体どうしたんですか?」
「怖い顔して来た瞬間寝始めたネ、アレか?史紀はアレの日アルか?」
「ちょっ神楽ちゃん何言ってんの」
「さあな、気がすんだら起きてくんだろ」

襖の向こうから万事屋トリオがあたしを気にかけてくれる声が聞こえてくる。
それをぼんやりと聞きながら、深くため息を吐いて天井を見上げた。

ほんとに何やってんだあたし。
あんな喧嘩、売り言葉に買い言葉だ。千果が本心で言ってないことぐらいわかってる。
もちろんあたしも本気で言ったわけじゃない。そんでそれを千果も落ち着けばわかるだろうと思う。
けど。

「…あー…ったく」

めんどくせえ。


――…


暫く経って、特に眠いわけではなかったんだから寝付けるはずもなく結局起きあがったあたしは、居間の方へと戻っていた。
気を利かせてくれたのか、神楽ちゃんと新八くんは志村家にもう帰ったらしく。
銀さんと2人してテレビを見ながら、なにを話すわけでもなくぼーっとしていた。

「…そういやお前、晩飯は?食ってねーだろ」
「いらない、食欲無いし」
「ダメだダメだ、ご飯はちゃんと食べなさい育ち盛りなんだから!」
「いや育ち盛りって年でもないし…お母さんかあんたは」

とにかく何でもいいから口に入れとけと、銀時はあたしの頭をぽんぽん叩いてくる。

その時気が付いた、千果とお揃いの髪紐を解いてポケットにしまい、別のヘアゴムで髪を結び直した。
一連の流れを見ていた銀時が、はは〜んと合点のいったような笑みを浮かべる。

「お前、千果と喧嘩したんだろ」
「だったら何」
「いきなり声のトーン下げんなよびびるだろ」

別に大したことじゃないと吐き捨てて立ち上がる。
どっか行くのか?と問いかけてくる銀時の腕を引いて立ち上がらせ、にまりと笑った。

「ご飯食べんならついでに飲みにいこ、銀さんと2人になんのも久しぶりだし」
「…まあ気晴らしにもなるか」
「そうそ、嫌な事は飲んで忘れるのが一番ーってね」

銀時の手を握り、近場の居酒屋へと向かう。

そんなに酒が好きなわけじゃないけど、こういう時には酒飲める人間で良かったなと思う。
飲んで、酔って、嫌なこと全部吐き出して忘れて。
…そんで、明日には屯所に戻ろう。千果にごめんって伝えて、仲直りするんだ。


――…


ゆら、ゆら。視界が揺れている。
それに気付くと同時に吐き気のビッグウェーブが襲いかかってきた。

「っゔ、」
「おいおいちょっと待て史紀俺の上で吐くなよ頼むから」

揺れが止まり、ぶらついていた足が地面につく。
ああ、銀さんにおぶられていたのかとそこでやっと気が付いて、途切れた記憶に疑問符を浮かべた。

しかしそれも強烈な吐き気によって思考を止めざるを得なく、そのまま道の片隅に吐いてしまう。
まさか自分がゲロインデビューするとは思わなかった。おぅえ…きもちわる…。

「お前なあ、自分が酔ったら寝るか吐くかするタイプだって事いい加減覚えなさい」

銀さんが背中をさすってくれながら、呆れたようにため息をつく。
二度目のビッグウェーブが去るのを待ちながら、ごめんと小さく呟いた。いやあたしも吐くまで飲む予定はなかったんだよ…つまみと久しぶりの酒が美味しすぎたんだよ…。

よろよろ立ち上がり、銀さんに肩を借りながら万事屋までの道を歩く。
帰ったら水飲んで、シャワー浴びよう。でも1人だとそのまま寝そうだから銀さんとお風呂入ろうそうしよう。
あたしとは違って、うっすらと酔う程度にしか飲んでない銀時の足取りはしっかりとしている。記憶には無いけれど、きっとあたしの愚痴をずっと聞いてくれていたんだろう。心なしかげんなりとした表情に見える。

「ごめん、銀さん。こういう時頼れるの、銀さんしかいないから」

ぼんやりとした思考の中、呟く。
あたしの言葉に肩をすくめ、銀さんはあたしのこめかみの辺りに口付けを落とした。

「今そういうかわいー事言わないでもらえる?口にちゅーしそうになったでしょうが」
「してもいいのよ」
「ゲロまみれの口にキスする趣味はねえよ」

ですよねー、笑いながら答えた。
あたしもさすがに、吐いたばっかの口にキスはしてもらいたくない。

とん、と銀時の肩に頭をあてる。
「どうしたー」と間延びした声が上から降ってきて、薄く目を細めた。
あったかい。やさしい。…これだから銀さんは。
甘やかさないで、責めてほしいのにと。初めて思った。やっぱり酔っているのかもしれない。
いつだったかは、もっとあたしを甘やかせよとか、思ってたのになー。

「銀時」
「んー?」
「好き」
「…酔ってんだろ、お前。いい加減にしねーと帰ってすぐ抱くぞ」
「いいよ?」
「史紀……お前なあ」

頭の奥がどんどんぼんやりとして、かすれていく。ああ、ねむい。

「あたしって何でビッチなんだろうねえ」
「知らねーよ、ていうかむしろそれ銀さんが聞きたいよ」
「あたしも、千果みたいに一途だったら、」

銀時と付き合ってたのかな。沖田と付き合ってたのかな。もしかしたら高杉についていってたのかもしんない。それとも、山崎と。幸せに。
なれていたのかな、普通の、子みたいに。

あたしの言葉に、銀さんはなにも返さなかった。
何を言ってるんだろう、自分でもそう思う。
こうなるのを選んだのは自分なんだって、何度も言ってんだろ。わかってんのになあ。

「酔うとセンチメンタルになりますなあ」
「…そーだな、さっさと寝ろ」

頷く。なんでみんなばかみたいに優しいんだろうね。

いっそこんなあたしなんて殺してくれればいいのにとすら思えるのは、やっぱり酔ってるからなんだろうな。



(死にてえなら、俺がいつでも殺してやるから)(そうだね)

 
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