喧嘩は江戸の花2



ひゅっ、と、風を切る音。
背中を嫌な汗が伝っていくのを感じながら、思わず浮かべていた微妙な笑みも引っ込んだ。

のど元に突き付けられる、剣先。

「史紀は知ってるでしょ私が近藤さんのこと好きなこと!女がいる男には手ぇ出さない主義はどこにいったの!?史紀はそこまでアレなクソビッチに成り下がっちゃったの!!」
「…あ゙ァ!?誰がクソビッチだ!私は普通のビッチだ!!」
「ビッチな次点で最低だってことに気付け史紀のバカ!近藤さんにまで手ぇ出すなんて思ってなかった油断した!世の中好きな男に近づく女は全て敵くらいに思ってなきゃいけないっていう梁絵さんの教えを今思い出したわ!」
「おーおーそうですかあたしは敵ですかハイハイそうですか!てめえの為になんかしてやろうと思ったあたしがバカだったよこのクソチビ」
「誰がチビか!私の為にとか意味わかんないし近藤さんに手ぇ出すのがどう私のためになんのさ!」
「チビはてめえだろーが鏡見てこいボケ!いいよもうめんどくせえやってられっか!!」

ちょ、あの、と会話に入ろうと頑張る近藤さんには目もくれず、あたしと千果はバチバチとにらみ合い火花を散らす。
その時、タイミング悪く「お茶が入りましたよー」なんてのんびりとした笑顔で別の襖から局長室に入ってきた誰かが持ってた盆に乗っている湯飲みの中に、あたしは灰皿の上で今にも消えそうになっていた煙草をひっつかんで突っ込んだ。
「ああお茶せっかく上手く煎れられたのに!」とかなんとか叫んでたけど、今は気にしてられない。

「あーもううっぜえ余計な事して損したわ。やっぱ他人の色恋沙汰には口出すもんじゃねーな」
「そうだよ、史紀は近藤さんなんて見ずにそこらの男と適当にきゃっきゃしてればいいじゃん」
「…は、てめえも結局そう言うのかよ」

なんかもう本格的にめんどくさくなってきた。
他の感情が高まってきたせいで冷めてきた怒りのおかげで、そこに山崎がいることにやっと気付く。
しょげてるように見えるのは…あたしのせいか。さっき煙草突っ込んだお茶持ってきてたん山崎だったのね。ごめん。

でもそれを口に出す気力はなくて。

「もういいわ、あたしここ出てくから」
「そうしてくれると私も嬉しいわ」
「おー、近藤さんにおままごとの相手でもしてもらったらどうだ?旦那さん役やってもらやあ千果みてえなお子ちゃまでも多少満足出来んだろ」
「は?私もう19なんですけど」
「まじで?小さかったからわかんなかったわ」

あたし達を見上げておろおろする男2人。
それを微塵も意に介さずに嫌味を言い合う女2人。
我ながら女の喧嘩ってこええよなと思いつつ、机の上に置いていた煙草を手にとってあたしは千果に背を向けた。

「もう帰ってこないでよね史紀のバカ!」

返事をする気にもなれず、心配そうにこっちを見上げる山崎を一瞥して局長室を出る。

「あ、っちょ、史紀さん…っ」

山崎はすぐに追いかけようと立ち上がってくれたみたいだけど、今の自分の顔を見られたくないし、ていうかあんな状況見せちゃったら合わす顔無いしで捕まりたくなかったので、あたしは全速力で屯所を出た。

…ちくしょう。
なんでこんなことに。



(史紀のバカ)(千果のばかやろう)

 
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