嫉妬と一日局長2



史紀がいないなあ、って気付いたのは万事屋トリオを土方が逮捕してからだった。
次いでお通ちゃんもいないことに気付き、あー多分史紀はお通ちゃんと一緒に拉致られちゃったんだろうなーと考える。
私としては、お通ちゃんには申し訳ないけど、お通ちゃんがいなくなってくれたおかげで近藤さんにやっと普通に近づけて嬉しい限りなのだけど。性格悪いとか言わないで自覚してるから。

その頃、テレビの画面に天狗党とやらがお通ちゃんを拉致った事が映された。
花野アナがしゃきっとした表情で喋ってんのが見える。
映された寺のてっぺんには、お通ちゃんと史紀。あーあー縛られちゃって。史紀あれわざと抵抗しなかったんだろうなあ多分。

慌ててみんなはパトカーに乗り、その寺へと急ぎ出す。
私も近藤さんと土方、万事屋トリオが乗っている車へと乗り込んだ。悲しいのは近藤さんの隣に座れないことか。

「史紀の野郎、姿が見えねえと思ったら何してやがんだあいつ」
「攘夷浪士に拉致られる才能でも持ってるんですかねィ」

車内での土方のぼやきに、私の隣に座っていた沖田が肩をすくめながら冗談めかして答える。
それに反応したのは、銀ちゃんだった。

「なんだ?アイツ、前にも拉致られた事あんのか」
「ああ、高杉にな」「ああああ近藤さんなに言ってんですかあ史紀が拉致られたのなんて今回が初めてですよ!」

銀ちゃんは、高杉と史紀の関係をまったく知らない。紅桜の時も、前回の吉原の時も。史紀は銀ちゃんに高杉とのことを教えてないらしかった。
私もその方が良いと思っている。銀ちゃんは、多分、史紀に一番執着してるから。
その銀ちゃんに高杉と史紀のアレコレなんて、まあ私もそんな詳しくは知らんけども、教えることなんて出来るわけがない。
知られたらと思うと……銀ちゃんも怖いけど、後での史紀がこわい。史紀キレると怖いんだよ。

ああでも耳聡い銀ちゃんには聞こえてしまっていた、ようで。

「は?高杉、って、何であいつの名前が出てくんだよ」

うわあああ車内が一気にシリアスオーラに包まれたよおお銀ちゃん怖いオーラがこわい。
隣で沖田も微妙な顔してる。近藤さんや土方の顔は見えないけど、土方さんが近藤さんを小突くのが見えた。…あー、土方は銀ちゃんを攘夷関係の人として疑ってるから。
近藤さんのこと大好きだし愛してるけどこういうとこは私もどうにかして欲しいと思うな!
小さくため息を吐いて、諦めて銀ちゃんに声をかけた。

「ちょっと前なんだけど…吉原で任務してた最中にね、高杉が史紀のこと買って、そのまま高杉んとこの船に連れてっちゃったんだ。まあ次の日には返してくれたんだけど」
「……へぇえ、ンな事あったのか。史紀は何も言って無かったけどな」
「それは多分銀ちゃんに心配かけないように、したんじゃないか、な〜…」

史紀まじごめん…次に銀ちゃんに会う日を楽しみにしておいてください…私にはもうどうにも出来ないです。ほんとごめん。


そうこうしてる内に寺へと到着した。
あわただしく外に出て、お通ちゃんと天狗党の奴が何かを叫んでるのを聞く。

と、不意に携帯が震えだした。びっくりして取り出し、画面を見る。
どうせ迷惑メールかなんかでしょ、と思ったけれど。予想外にもそれは史紀からだった。
寺のてっぺんを見上げる。縛られている史紀が見える。…どうやってメール送ったのあの人?
むんと眉を寄せつつ、文面に目を落とした。

「土方と沖田の茶番、ムービーで撮っといて…?」

何言ってんの史紀。余裕にも程があんでしょ。
唖然として、また史紀を見上げる。満面の笑みだった。こっわあ。史紀のあんな笑顔そうそう見られないぞ…。
ぶんぶんと首を縦に振り、ムービーを起動させた携帯を土方にこっそり向けた。ちょうど三回まわってワンのシーンで、笑いを堪えるのに携帯が揺れてしまったことは許してもらいたいと思う。

その後も、ロボットダンス沖田、沖田のものまね土方、エビのものまね沖田を動画にしっかりと撮り、本体に保存、コピーをSDに保存した。加えて動画を史紀の携帯とパソコンにも送信しておく。
良い仕事したやろ?と史紀を見上げた。

…あれ、史紀いなくね?
どこ行ったんあの子。あれ…あれえ?


ううんと首をひねっている間に近藤さんを斬れ命令が下り、私は史紀のことなんか忘れ慈愛に満ちた天使のような微笑みを浮かべながら、天狗になってるバカクソ攘夷浪士の元へと走り出したのだった。



(近藤さん殺せとかまじ言ってる意味わかんない〜)

 
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