嫉妬と一日局長



お通ちゃんが真選組1日局長をすることになった。

あたしとしては可愛い子が増えて嬉しいんだが、そして真選組全体も浮き足だっているのだが。…問題が1つ。


隊服の背中に「おつう」とサインをもらっている近藤さん。
お通ちゃんの隣にずっと立っている近藤さん。
この命続く限りサイン入り隊服を背負っていくつもりらしい、近藤さん。

そしてそんなハイテンションゴリラとお通ちゃんを、地獄の底から這い出てきた化け物のような表情でじっとりと眺めている、千果。

「…おい千果、素でこええからその顔どうにかして」
「なに言ってんの史紀、今の私は天使ルシフェルのように慈愛に満ちた顔をしているよ」
「いやサタンのように悪意に満ちた顔をしてるよ」

ぎりぎりと握りしめる拳からは血が流れている。ギャグマンガ的表現だなあとやや現実逃避をしつつ、千果から目をそらした。
こわい、恋する女ってこわい。あたし涙でそう。
近藤さんもうちょっとお通ちゃんから離れてテンション下げてくんねーかな!


お通ちゃんの言葉でガチャガチャと刀を捨てていく真選組一同を遠目に眺め、ため息を吐く。
二人分ほどの距離をあけた場所に立っていた土方も「転職でもするか」とその状況を呆れ気味に眺めていた。

「トシ、総悟!何をやってんだァ!お前達も早く武装解除せんか!千果ちゃん史紀ちゃんも早く!」
「近藤さん、アンタは頭をもう少し武装する必要がある」
「はあいわかりました近藤さあん!」
「千果おまえ」

近藤さんに話しかけられた瞬間、花のような満面の笑顔を浮かべて刀を地面に叩きつけるようにして捨てる千果。おまえそれ近藤さんからもらった刀だって覚えてる?覚えてる上でやったんならこええんだけど。
あたしはめんどいので刀は腰にさげたまま。持ってた方が良いってことも知ってるし、なあ。


そのままわちゃわちゃしている真選組、はりきっているお通ちゃん、お通ちゃんに呼ばれて現れたマスコットキャラクターの誠ちゃん。
セーラー服の神楽かわいいなあ、死体だけど。と思いながらも、特に触れることはしない。
銀時…いや誠ちゃんの上半身と目があった気もしたが、気のせいだと思うことにした。だって話しかけても哀しげな目しか向けられなさそうなんだもの。悲哀が漂ってるんだもの。やだよあんな銀ちゃん。

さて、場面は変わり真選組全体で市中見廻りである。
もちろん屯所に残っている隊士もいるが。あーあたしもそっちにしときゃ良かったなあと今更ながらに思う。

あたしは沖田の隣、千果は近藤さんの隣をぼんやりと歩き「テロ用心〜」と時たま声を出す。
こんなんやっても意味無いどころか道行く人たちの視線ちょう痛い。真選組やめたい。今ここに高杉来たら両手広げて抱き締めにいっちゃうレベルで真選組やめたい。

「あれ、まこっちゃんどこ行くの」
「やっちゃったものな〜完全にやっちゃったな〜」

誠ちゃんから上半身だけ抜け出て、そのままふらりとどっかへ言ってしまった。
その頃には近藤さんとお通ちゃんはいちゃいちゃしていて、千果は悪魔の形相でそれを邪魔するように声を上げていて。なにこの修羅場。
ていうかまこっちゃんあたしの事も無視るレベルで役になりきってんの!?こっええなにその根性。あれもしかしてさっき話しかけなかった仕返し?

…もうやだこの集団。

「お通ちゃん」
「え?あ、っと川崎さん…だよね」
「うん。あ、後でサイン貰えると嬉しいです。ごめんね、真選組バカばっかで」

そんなことないよ楽しいし、とお通語を交えて答えてくれるお通ちゃん。
ええ子やわと目を細めていたら、がしりと、何かに腕を掴まれた。
そしてそのまま、お通ちゃんと共に路地裏へと引き込まれる。

ああ、ここでか。
自分まで一緒に拉致られる予定は無かったんだけど…うーんまあ吉原以来の女装山崎にも会えるしいっか。
適当に軽く抵抗していたけれど、鳩尾を殴られ一瞬気を失う。おいおい腹パンはあかんよ腹パンは。痛いんだぞ。
すぐに咳き込みつつも意識は取り戻したが、刀は奪われ体は拘束された。同じく縄で縛られたお通ちゃんが心配そうにこっちを見遣っている。

「川崎さん…、」

ごめんね怖い目に遭わせて、でもまあ大丈夫だよ。小声でそっと、告げた。

「真選組もまこっちゃん達も、バカだけど頼りになるから」
「…そう、だね」

無理矢理立たされ、どこかへと連れて行かれる。
確か、なんか塔の上だったか。高いとこあんま好きじゃないんだけどなあ。
肩をすくめ、煙草吸いたいと小さくぼやいた。



(煙草吸わせてもらえません?)(川崎さん余裕だね…)

 
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -