手向けの徒花6
船の甲板に出ると、空は暗くなり始めていた。
赤と紫と青が混ざった、複雑な色。
しかしここどこの上空なんだろう。かぶき町からそんな離れてないといいんだけど。
「次に会ったときは、無理矢理にでも連れて行くぜ?」
「どーぞお好きに。意地でも逃げますから」
あたしの背後に立つ高杉に振り返って、べ、と舌を出す。
ククッと肩を震わせて、高杉は何かをあたしに放った。慌ててキャッチすると、それはあたしの携帯で。
ちらと高杉に目線を向けてから、電源を入れる。残り10%もない電池残量にひやりとしつつ、着信と受信メールを確認した。
着信はほとんど、沖田と山崎からだ。メールは確認する時間が無いので、一番最新の奴だけを見る。千果からだった。
――今日の夜までに帰ってこないと土方が裏切り者認定するってよー。
変なデコメと共に、そう書いてあった。そのデコメやめろ腹立つ。何の生き物だコレ。
って、いうか、まじかよ土方オイ。やめろくださいそういうの。いやでも昨日からだから猶予くれただけ土方優しい?これ優しいのか?
携帯片手に百面相してるあたしがよほど面白かったのか、高杉がまた肩を震わせていた。
お前ほんと笑い上戸だよね?
「こっから真選組の屯所までどんくらいかかるんすか」
「…3時間強」
「っ遠いな!びっくりしたわ今!」
今、えー何時…6時!?3時間後って9時じゃん!もう完全に夜じゃんアウトじゃん!
うっわすっげえ帰りたくなくなってきた。屯所ついた瞬間土方に刀向けられそうやばい。家出したい。…してたわ自分からじゃねーけど!
え〜もうやだ〜なんて鼻の奥の方から変な声を出してしゃがみこむ。
土方いざって時はまじでこええからやなんだよなあ…まじで帰りたくねえ…でも居残りたくもねえ…。
とりあえず千果に電話すっかと携帯を再度開く。瞬間に届くメール。は?高杉?あっ充電切れた。
「お前ほんと何してんの!?」
「別に」
「別に別に言い過ぎなんだよこの晋助様め!!」
携帯を逆パカしてやりたい衝動を必死に押さえ、深呼吸のちに巨大ため息。
連絡取れなくなった。どうしよう。
このままじゃ完全にアウトだ。死亡フラグしか見えない。主に土方に殺されるルートしか見えない。いっそ元の世界に帰りたいけどその前に山崎と結ばれたい。
「もういいからなるべく船とばして頂けますか…」
脱力気味に伝えれば、その必要は無ぇみたいだぜ?と返された。ハァン?である。
なに言ってんだこいつ、と思った瞬間だった。
一隻の船が、今あたし達が乗っている船に、突っ込んできたのは。
激しい揺れにバランスを崩す。と、高杉に腕を引っ張られた。
そのまま肩に顔を押しつけるように抱きしめられ、ますます疑問符が浮かぶ。ハァン?なにしてんのこいつ?って感じの疑問符な。
だけど聞こえてきた声に、疑問符はまた別のものに変わった。
「史紀ーっ!助けに来たよー!」
「史紀さん、無事ですか…っ」
「おーい史紀、王子様が迎えに来やしたぜィ」
な、なんで、なんで千果と山崎と沖田の声聞こえてくんの。
「何してるんですか川崎さん!」
「お嬢ー!大丈夫ですかー!」
なんで有賀の声も聞こえてくんの。他にも隊士の声もすっげーいっぱい聞こえるんだけど。
「史紀の奴、高杉とべったりじゃねえか。ありゃ完全に黒だな」
「何言ってんだトシ!無理矢理かもしれんだろう!」
「いやでもあいつビッチだし」
「ビビビビッチとか言うんじゃありません!!」
そんで、何で、土方と近藤さんの声まで、聞こえてくるわけ?
え、え?なにこれ最終回?隣の恋は今回の話で終了なの?みんなに迎えにきてもらって「今更帰れないよぉっ!」「そんなこと言うな!お前の家はここだ!」とか言われてあたしが泣きながら真選組のみんなにハグしたとこをアクリルタッチの絵で描かれて終わるの?泣きながら満面の笑みを浮かべている主人公かっこあたしかっことじの絵で終わっちゃうの?
ちょっと待ってよまだあたし山崎と結ばれてないし千果も近藤さんと結ばれてないよ!まだ終われない!ここじゃ終われない!神は言っているここで終わるべきではないと!でもすごい最終回くさいよこの展開!
「よォ高杉、俺の史紀になに簡単に触れてんだてめえ」
「沖田こわ!ていうか史紀別に沖田のではなくない?」
「そういうのはどさまぎで自分のにしとけばいいんですぜィ、千果」
「なるほど!」
「いやなるほど!じゃないですよ千果さん」
ところどころギャグっぽいの突っ込んでくる辺りが尚更銀魂夢の最終回くせえー!
もうやだどうなんのあたし。ここで終わるの!?終わっちゃうの!?
「終わらないから大丈夫だよ史紀!」
「心読むんじゃねーよ千果!」
(高杉のため息が聞こえた)
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