手向けの徒花3


千果視点


笹本一派の大半は壊滅。長瀬、井上、笹本をしょっ引くことも出来た。
今回の一斉検挙は大成功、ってことで幕を閉じた。

私も近藤さんの傍で役に立てたと思う。今回は1人で突っ走るような事も無かったし、大した怪我もしていない。
近藤さんにも、よくやってくれたって褒められた。本当はこんな事に巻き込みたくはないんだけどなとも言われたけれど、私は近藤さんと同じ場所に立てるのが嬉しかった。

お妙さんの事は好きだよ。優しくて、強くて、すっごく良い人だと思う。
だけど、どうしても比べてしまう。
お妙さんは近藤さんの隣に立って、一緒に刀を振るうことは出来ないでしょ。こんな風に近藤さんに、優しく頭を撫でてもらうことはないでしょ。
…まあお妙さんが近藤さんのこと恋愛対象で見てるとか全っ然思ってないんだけどね。どちらかと言うと私は銀妙派。


って、今はそんなことはもう良くて。
すべてが終わったのは夜の11時近く。まだ明日も書類やら手続きやらの仕事がたくさんあるらしいけど、とりあえず屯所に帰って一息つくことが出来たのが、今さっきだった。

そんで、そこで、もうひとつ起きていた事件が、動いた。
一言でいうと、土方にバレた。

史紀が、高杉といる事が。

山崎の口封じが遅くなったのが原因だ。山崎は土方に、史紀が攫われた事を告げた。そこから店の主人に史紀を買った人間の事を聞き出し、土方はそれが高杉であることを突き止めた。
もうそこまでバレたら隠していても意味がない。問い詰められた私と沖田、っていうか私は、メールの事を土方に話した。…嫌々だったけど。

「あいつが戻ってくる保証はあるのか」

全てを理解した後、土方は私にそう問いかけた。

保証なんて、あるわけないじゃん。
史紀のことは、まあ、信じてるけど。受けた恩とか、大好きな人たちの好意とか、そういうのを史紀は無碍にしない。ちゃんと、大事にするタイプだと思う。
だけど、自分が楽しいのが一番っていうのも、史紀の性格だ。あと意外と流されやすいところ。めんどくさがりだから、自分の思考を放棄しちゃうのが多い。
だから、「絶対帰ってくる」とは、私には言えなかった。

黙り込んでしまった私に、土方はため息と一緒に煙草の煙を吐き出す。
今の、史紀と似てるなあなんてその煙をぼんやり目で追っていたら、ばん!と鈍い音が室内に響いた。
何かと思って、音の方へ目を向ける。
山崎が、畳を叩いた音だった。

「史紀さんは、帰ってきます。絶対に」
「どうしてそう言える?あいつは、自分の意志で高杉について行ったかもしれねェだろ」
「それは絶対、ありえません!」

いつになく強気な山崎に、ぽかんとしてしまった。
それは土方や沖田も同じようで、唖然としながら山崎を見つめている。

「部屋には争った形跡もありましたし、史紀さんの煙草も残っていました。それに」

山崎が隊服のポケットから何かを取り出す。…細い、なにか。あれ、は。

「史紀さんの髪紐です。千果さんとお揃いで、とても大切にしている物でした。真選組を離れるつもりなら、これを落として行くはずがありません」
「…逆に、真選組と遠藤を捨てるつもりで置いていったとも、取れると思うが」
「――…それは無い、と思う」

そこで初めて、私は口を挟んだ。
立ち上がり、山崎から髪紐を受け取る。

幼稚園の頃から、史紀とは一緒だった。高校は別々の場所に進学したけど、それでもいつだって連絡取り合って、数ヶ月ぶりに会っても昨日の続きみたいに遊べて。
高校卒業してからの進学先も別々だったけど、それでもいっぱい、一緒に遊んだ。バイト先は同じとこにして、一緒に働いた。
腐れ縁とも、幼なじみとも、親友とも、悪友とも言える。
くだらない喧嘩もしたけど、気付けば仲直りしてた。
高校を卒業した時に、これからもずっと仲良しでいようねって、そんな願いを込めて一緒に買ったのが、この髪紐で。

その髪紐を、史紀が捨てていくわけが無い。

「史紀がどういう状況で高杉についてったのか攫われたのか、そんなんわかんないよ。だけど少なくともその髪紐を置いてったのは、ばいばいするためなんかじゃない」
「千果…」
「その髪紐は、史紀からの最後の、助けてってサインだよ」

ぎゅうと髪紐を握りしめる。土方を、睨み付ける。
土方がうちらのこと、そんなに信じてないのだって知ってるんだよ。突然やってきて、戸籍もなんもなくて、身分の証明なんて出来なくて。たまたまとっつぁんに気に入られたからここに置かせてもらってるだけのうちらが、真選組の名前を名乗ることが気にくわないのも知ってる。

「帰ってくる、史紀は。絶対に」

今度こそは、確信を持って告げた。
私の目を見て、その手に握る髪紐を見て、土方は目を伏せた。

「……明日の晩だ。それまでに史紀が帰ってこなかったら、俺はあいつを裏切り者と見なす」

ゆっくりと吐かれたその言葉に、背を向けた。



(だから私はあなたがきらい)

 
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