手向けの徒花


千果視点


松平のとっつぁんが特別に作ってくれた、女用の隊服を着る。
刀の手入れはさっき終えた。太もものホルスターに、とっつぁんにもらった銃もちゃんとセットした。

今日の17時…あと2時間後。
吉原のとある店にて、一斉捜査が行われる。
珍しく、近藤さんの補佐として出ることを許された私は、テンションが上がっていた。
近藤さんを守って、守られて、あの人の隣で戦える。
こんなに嬉しいことはないじゃないですか!ねえ!?史紀に話したいけど今任務中だしな〜って電話はしてない。とりあえずメールは入れた。返事こなかったけど。

「千果ー、準備出来やしたかィ?」
「出来たよー。迎えに来てくれるなんて沖田やっさしー」
「史紀がいないんで暇なだけでさァ」
「その返しはつらい」

だけど、「ですよねー」って感じ。
銀ちゃんもそうだけど、沖田もほんと史紀の事好きだよなあって思う。それこそほんと、いつか史紀監禁されんじゃないのかってくらいに。
2人ともやろうと思えば出来そうなとこが怖いんだよなー。特に沖田なんかお金もそこそこあるだろうし。
まあそんなことしたら、私が許さないんだけどね?


お仕事前の腹ごしらえに、沖田と2人で食堂へ向かう。
あーだこーだと史紀の吉原での任務について話していたら、ぶぶぶ、と携帯が震えた。おならすんなよと顔を顰める沖田に一発銃弾を放ってから、携帯を取り出す。

受信したのは、史紀からのメールだった。
カチ、とメールを開いて、そして。その文面に、表情が消えた。

「なんというか、千果はだんだんとっつぁんに似てきやすねィ……って、どうしたんで?」

沖田がなんか言ってる。でも、何を言ったのかわかんなかった。

メールの送信者を確認する。間違いなく、史紀からだ。だけど、その文面は明らかに、史紀が書いたものじゃない。
どういうこと?だって史紀は今、山崎と任務中なんでしょ?なのに何で、あの人が、史紀の携帯からメール送ってくんの。何でこんな内容、書かれてんの。

携帯を見下ろしたまま固まる私を不審に思ったのか、沖田が私の携帯の画面をのぞき込んだ。
見えないけど、なんとなく。沖田も固まったんだろうなってのが、わかった。

「、何なんでィ…これ」
「……たか、すぎ」

呟く。沖田が息をのむ音が聞こえた。


――史紀は俺んとこにいる。今回はそのうち返してやっから、手ぇ出すな。
余計な事したら、史紀は二度と帰ってこなくなるぜ?


挑発的な文面だった。確実に、というか、高杉以外にいない。
沖田が隣で携帯をいじる。多分山崎にかけてるんだと思う。長いコール音と舌打ちが聞こえて、沖田を見上げた。
きつく、唇を噛んでいた。

…心配じゃないわけじゃ、ないけど。
多分史紀は大丈夫だろうと思う。高杉は史紀に興味か好意かは知んないけど、そういうの抱いてるっぽかったし、殺されることは無い、はず。
史紀もいざとなったら逃げるなりなんなり出来るだろう。…多分。
でも相手は高杉だしなー…紅桜の時も史紀のこと刺してたしなー…なんか不意に殺しちゃいそうなんだよね〜…。高杉って好きな人殺しそうなタイプじゃん?完全に偏見だけど。

コール音が止む。忙しそうな、慌てている様子の山崎の声が聞こえてきた。
背伸びをして、沖田の携帯に耳を寄せる。

『ど、どうしたんですか沖田隊長?』
「どうしたもこうしたもねェよ山崎。史紀はどうしたんでィ」
『え…史紀さん、ですか?史紀さんなら別の場所で…その、客の相手をしていると思いますが』
「今すぐその部屋行け」
『えっ!?いやでも、』
「いいから行け!すぐに!!」

沖田口調じゃなくなってる、と思いつつ。
ああ、山崎と史紀、別行動とってたんだ。ほんの少し冷めた目を細めて、背伸びをやめた。

ゆっくりと、時間が経つ。
再び口を開いた電話先の山崎は、山崎の声は、震えていた。

史紀も、客もいない、もぬけの殻。
残ってたのは乱れた布団とこぼれた酒だけだと聞いて、史紀らしいと小さく肩を震わせる。まあ聞こえてくる乱れ方だと、どうやら史紀は抵抗していたようだけど。

沖田は、山崎にそのまま待機して最初の予定通りの任務を続けるよう告げた。
渋る山崎に一喝。あーあーキレてるなあとだんだん落ち着いてきた私はため息をひとつ。
通話を切って、どこかに駆けだそうとする沖田の手をつかみ、引き留めた。

「なに、するんでィ、千果」
「史紀のとこ、行くつもりっしょ?」
無言で頷く。
「駄目だよ。余計な事したら史紀は返さないって、書いてたじゃん」

「じゃあ!どうしたらいいんでさァ!?」

びっくりした。いきなり叫ばないでください。
泣きそうな顔で俯く沖田。ああ、まあ、まだ銀ちゃんには事の次第を知られてないから、沖田だけで良かったなあ。うん。私が2人を引き留めるとかほんと、無理ゲーだわ。

「ほっといたら帰ってくるって言っても、待ってらんない?」
「帰ってくる保証なんて、どこに、」
「うーん……」

こりゃだめだなあ。沖田は割と、史紀を失うことを怖がってるっぽいし。
自分が動いてどうにかなるわけじゃないとか、わかってても。史紀がどこにいるかなんてわかんないって、知ってても。
史紀を助けたくて、高杉をぶん殴りたくて、仕方ないんだろうなあ。

こっちの世界に来てから2、3番目くらいに仲良くしてるんだから、沖田の気持ちがわかんないわけじゃない、けど。

「もしかしたら、史紀が自分の意志で高杉と一緒に行ったのかもしんないよ?」
「無理矢理ひっつかんで、連れて帰りまさァ」
「もう史紀は死んじゃってるかも」
「死体でも…取り返しやすよ」
「焼かれたりとかして、死体すらないかも」
「その灰、かき集めて持って帰りまさァ」
「…逆に沖田が、史紀に殺されちゃうかもしれない」
「それはそれで、本望だねィ」

2度目のため息をついた。…あんたほんと、史紀病だわ。

「じゃあそんな総悟くんの代わりに、私が史紀を迎えに行ってくるよ」

ぽかんと、沖田がアホ面を晒した。これはレアな気がする。
史紀がいたら写メってただろうなあと思って、携帯を構えてなかったことをちょびっとだけ後悔した。
「…は?」と、ようやく沖田が声を漏らす。私の言葉がよほど、予想外だったみたい。

「だから、代わりに行ってくるって。沖田行かせたら土方うるさそうだし、つーか沖田いなきゃ多分今回やばそうじゃーん?」
「、って、だからって何で、」
「まあ私も心配っちゃー心配だし?2人して悶々としながら吉原行くくらいなら、互いが互いにやること任せて、ってやった方が効率良さそうだし?」

一瞬の沈黙。んじゃそういうことで、と沖田の背中を軽く叩いた。

「せっかく近藤さんとのラブチャンスがあったのフイにしたんだから、今度なんかおごってよー」

沖田に背を向けて歩き出す。さてまずどこに向かおうかな、と思案し始めたところで、今度は逆に私の手を掴んで引き留められた。
考えるまでもなく、犯人は沖田だ。

「ごめん、千果」

柄にもなく素直に謝られて、目を丸くする。
あの沖田が、ごめんて、謝った。…おおう!?

「俺が悪かった、から、今回は大人しく待ちやしょう。…史紀が、帰ってくるの」
「……あ、そう?なら良かった。正直探すのめんどいしね」

あてもないし、と続ける。
「薄情者ですねィ、史紀が聞いたら泣きやすよ」と。泣き笑いのような表情を浮かべる沖田の頭を、精一杯背伸びして、撫でた。

「何すんでィ」
「お姉さんからのご褒美だぞ、喜べよ」
「こんなちっせえ姉ちゃんもらった記憶ねーや」
「ちっさくないよ!」

そっと、笑う。2人の足が向かう先は、予定通り食堂だ。


史紀、迎えには行かないけど、大丈夫だよね。
高杉と一緒にいるなんて、誰にも言わないから。私と沖田だけの秘密にするから。
だから早く、帰ってきてね。
んで、その後なんか奢ってね!



(勝手な約束だけど)(破ったら許さないから)

 
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