地下の花6



「笹本の奴等がどうなろうが知ったこっちゃねえが、俺の知らねェとこでお前が怪我するのは面白くないんでな」
「人のことぶっ刺しといてよく言うわ」
「俺が怪我させるのはいいんだよ」

なにその俺様理論。

だからお前にこの戦いには混ざらせねえと、そう言う高杉に頭を抱える。
んなこと言われたってこっちは仕事で来てんだ。山崎もいるし、高杉の相手ばっかしてらんない。つーかお前敵だし。
この際どうにかこうにか携帯を奪い返すか壊すかして、面倒事に巻き込まれる前にさっさととんずらこくか…。

なんて考えていたら、いつの間にか高杉に押し倒されていた。
あれ、何で。気付かなかったんだけど本当に。速すぎるだろ高杉さん。
天井と高杉しか映らない視界に、この距離なら携帯奪い返せるんじゃね?と考えたのも束の間、両手を頭上で拘束される。

「レイプ魔かお前は」
「合意の上はレイプじゃねェ」

あたしいつ合意したんだよ…記憶に無いぞ…。

「それに、言っただろ?」

高杉は顔をあたしの耳元に近付け、囁くように言葉を紡ぐ。

「明日までテメエは…俺の物だ」
「っ、」

思わず、ぞくりと背筋が震えた。

何に属するのかわからない感情が迫り上がってきて、思わず高杉から顔を背ける。
そんなこと言われてもあたしは真選組だ、こいつの言葉にほいほい釣られるわけにはいかない。それは、あの人達への裏切りになる。

深呼吸をひとつして、ばくばくと跳ねるうるさい心臓を落ち着かせた。
そして再び視線を高杉に向け、あっかんべと舌を出す。

「どんだけビッチと言われようと、そこまで腐ってはないんでね」

言いながら右足を振り上げ、高杉の背中に蹴りを入れる。
突然の衝撃に少なからず驚いたらしい高杉の手から力が抜けるのを感じて、あたしは頭上にまとめられた手を引き抜き、体を回転させて逆に高杉を押し倒した。
高杉の手足を自分のそれで拘束し、安堵の混ざった表情でにやりと笑う。

「形勢逆転、」
「どうだか」

懐の携帯を奪い返そうと右手を浮かせる。と、同時に拘束から逃れた高杉の左手が、あたしの鳩尾の辺りに埋まった。
…腹パンは無しだろ、こんにゃろ…!

腹部の衝撃に咳き込み、高杉の上から転がり落ちる。今度から腹に鉄板でも仕込んでおこうそうしよう…。
そんなことを考えていたら、不意に高杉に手を引っ張られた。

「っん、!?」

そのまま重なる唇に目を見開く。同時に、高杉があたしに何かを口移しで飲ませようとしていることに気付いた。
何かはわかんないけど、とにかくそれを口内に入れさせまいと口を真一文字に結ぶ。

視界に映る高杉の目は、それはそれは楽しそうに歪んでいて。

ぺろりと舐められた唇に驚いて僅かにあいた隙間から、舌を差し込まれる。
そして流れ込んでくる、高杉の口内でぬるくなった液体。
酒…?と味に気付いたところで、さっきの話を思い出す。

「っこれ催淫剤っつってた奴じゃ…!」

とっさに高杉の体を押して口を離した、瞬間に。

っごくん。

「…や、っべ」

の、飲み込んじゃっ…た…。
自分の馬鹿さ加減に震える。やばいどころじゃない。

本当にこの酒に何か入ってんのか戦々恐々としながら高杉を見上げる。

「ただの睡眠薬だ、安心して寝ろ」

その言葉を聞くと同時に、うっすらと視界にぼやがかかる。

いや全然安心出来ねえとか、あたしの勘当たってんじゃねーかとか、催淫剤っつってたのは冗談かよ柄じゃねぇなとか、いろいろ言いたいことはあるんだけども体に力が入らず、口を開くことも出来ない。

どさり、床に崩れ落ちる。
あーくっそ、せめて山崎になんかあったことだけは知らせないと…。
朦朧とする意識の中で必死に携帯を探す。ちょっとでも、着信だけでも残しておけば山崎なら何かがあったことくらいは気付いてくれる。だから…。

ふと、ぼやける視界の中で何かが揺れているのに気付いて目線をあげる。

そこには、携帯のストラップに指を引っかけて弄んでいる、高杉の姿があった。



 (あーそっか、盗られてたんだった…)(残念だったな)

 
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