地下の花4



朝日が昇り始めた頃、携帯を手に持ち、部屋を出るため布団から這い出ようとしたらがしりと腕を掴まれた。
眠っていると思っていたけど狸寝入りだったらしい、顔を向ければ細められた目でこっちを見る高杉。
どこ行くんだ、と本当に寝起きだったのか少し掠れ気味の声で呟いた。

「定時連絡、昨日できなかったから」
「ここですりゃあいいじゃねーか」
「仮にも敵の大将の前でそれは出来ないって。山崎にも顔見せときたいし」

その敵の大将にあんあん喘がされてたのはどこのどいつだったっけなァ、なんて肩を震わす高杉の下腹部に蹴りを一発入れてやって、これも仕事の内だよバカヤローとあっかんべをしながら部屋を出て行く。
いつぞやは大人しく腹刺されたけど今回もそう上手くあたしをあしらえると思ったら大間違いなんだからな!

とっと、と階段を下り山崎が寝ているはずの部屋へと向かう。
小さくノックをしてから襖を開ければ、あたしの気配で起きたらしい山崎が半分体を起こした姿勢でこっちを向いていた。

「おはよう」
「ん…史紀、さん?」

寝ぼけ眼な山崎も可愛いなあ。

そうだよと微笑んでそっと襖を閉め、山崎の寝ている布団の脇に正座をした。
小さな声で、昨日高杉から聞いた情報を山崎に耳打ちする。それ本当?と聞き返してくる山崎に、多分、と頷いた。

「嘘は…言ってないと思う」
「…どうやって、聞いたんですか…?」

その言葉に何も返せず曖昧に微笑み返せば、ふわりと山崎に抱き寄せられた。
昨日の高杉とは違う、優しさの塊みたいな抱擁。山崎の、匂い。

「ごめん…、ごめんね」
「、そんな声出さないで。あたしは慣れてるから」
「…ごめん、」

どちらかというとごめんはあたしのセリフだ。
自惚れかもしれないけど、山崎があたしを大切に思ってくれてることを、知っているのに。
あたしは山崎に好かれる資格なんてない。そりゃ好かれるのは嬉しいし結婚したいくらい大好きだけど、あたしと山崎じゃ釣り合わない。

こんな、綺麗な心の子。

「ありがと、その言葉で充分。あたしの意志でやったんだから山崎が気に病むことはないって」
「でも、史紀さん」
「あたし土方にも報告しなきゃ。だから、ね。…もう離して?」

やんわりと山崎の体を押し返す。
でもあたしの背中に回された山崎の手は離れなくて、解けなくて。
山崎?と小さく問いかければ、ぎゅうとその手の力が強くなった。

「っ、苦しいよ」
「史紀さん、何で史紀さんは、俺には手を出してくれないんですか?」
「、山…崎?」
「沖田隊長や万事屋の旦那、それに顔も知らないような男とも…シてて、隊長に言うみたく俺のことも好きだって言ってくれるのに、何で、俺とは…っ」

ど、どうしたどうした、寝ぼけてんのか山崎。

がっと両肩を掴まれ、数cmしか離れてない距離であたしを見つめる山崎の目は悔しそうに揺れていて、ほんの少し、涙が滲んでいる。
そんな顔を見たらどうすればいいのかわかんなくなって、思わず固まってしまった。

ていうか何で手ぇ出してくれないんですか、って、え?出していいの?いやいやダメだろ…お風呂入ったとはいえ昨日高杉とヤったばっかだし、そんな昨日の今日で別の男とヤるとかビッチか。あっビッチだったわあたし。
いや今してるのはそんな話じゃなくてだな。

「と、とにかく山崎落ち着いて…」
「落ち着いてます、充分」
「確かに山崎のこと、好きだよ?でもやっぱそういうのは段階を踏んでさ」
「隊長や万事屋の旦那とも、段階踏んだんですか?」

…ああうん、ほぼ走り高跳びくらいの勢いですっ飛ばしたね、適当言ってごめん。

あたしの肩を掴んだまま、俯いてしまう山崎にどうしたもんかと思考を張り巡らす。
なんかもうこのままだとそのうち山崎が抱いてくださいとか言いかねん気がする。なにそれエロゲ?ていうかあたし男?
今のとこあたしに山崎とヤるつもりは無い。多分誘われても、しない。だってそんな生半可な気持ちで手ぇ出したくないし。大事だから、傷つけたくないから、せめて体だけでもなんて状態で繋がるなんて嫌だ。
だからと言って銀時と沖田を傷つけていいわけじゃないんだけど…あの2人はそう伝えた上で、今ああなってんだからお互い様。

でも山崎はそうはいかない。
大事で大好きで、壊れ物に触れるように大切に愛でていたい。
そりゃあ山崎とヤったら山崎はどんな風にすんのかなあとか気にならないわけじゃないけど。むしろいつでもウェルカムだけど。

まあ、あたしが本当の本当に本気じゃない内は、銀さんや沖田だけじゃなく高杉も、…土方も、みんなが心の中の大事なとこにいる内は、山崎には手を出さない。
そう決めてるから。

「…好きだから、手が出せないんだよ。ごめん、山崎」

山崎は弱々しい眼差しであたしを見上げて、そっと、手を下ろした。



 (いつか絶対、応えるから)(じゃあそのいつかを、待ちます、ずっと)

 
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