愚痴と甘えん坊
何故あたしの部屋で土方の悪口大会が開かれているのだろう。
鬼嫁と書かれた酒を瓶ごと飲んでいる沖田と、缶のレモンスカッシュ片手に床をばんばん叩く千果を横目に見ながら、ため息と共に煙草の煙を吐き出した。
「ほんと土方さあ!まじ!私は近藤さんのことを本気で愛してるんだよ!!心の底から大好きだし幸せにしてやんよっていうか近藤さんとならどんなに不幸のどん底でも歩んでいけるってくらい大好きなんだよ!!なのになんであんなに邪魔すんのほんと鬱陶しいまじ邪魔本気で邪魔」
セリフ長え。
「そうでさァ!土方の野郎は人をバズーカで狙ったり夜な夜な丑の刻参りしたり仕事中に変なアイマスクつけて昼寝したり、あんなんが副長のままじゃ真選組が腐っちまいやずぜィ」
それはお前だろ。
もうこの2人確実に酔ってる。
つーか沖田はともかく何で千果まで酔ってんの?それ実はジュースじゃなくて酎ハイなの?
あたしは別に土方に恨み辛みがあるわけじゃなし、てかこっち来てからはそれなりに感謝してるし、そこそこ気も合う感じだから悪口なんか無い。多分。今のトコ。
土方の悪口大会開くなら沖田か千果の部屋でやれよまじ。
あたしを寝かせてくれ頼むから。
「ふあ…あー、私もう眠くなってきた。帰る」
「おう、帰れ帰れ。そんで朝までぐっすり寝れ」
「史紀ちゃん冷たい!」
「千果お前やっぱ酔ってんだろ」
けらけらと笑いながら部屋を出て行く千果。
酔ってるわけではない、はず。だってここにあるのどっからどう見ても缶ジュースだし。
まああれだろ、ただの深夜テンション。
明日になったら戻ってるよなと、自分の部屋に戻っていった千果を見送って障子を閉めた。
残るは一升瓶片手にゆらゆらしてる沖田のみ。
最悪こいつはあたしの部屋で寝かせといてもいいけど、出来れば自分の部屋に帰らせたい。
「沖田ーしっかりしろ。んでお前もそろそろ帰れ」
「んー…嫌でィ」
「おーきーたくーん」
酒瓶をテーブルに置き、ごろごろとあたしに向かって転がってくる沖田。
そのままあたしの膝の上に頭を乗っけて、上目遣いでこっちを見上げてきた。はい可愛い。
「史紀ー…」
「甘えた声出さないの」
なんでこう受け受けしいんだこの沖田は。
酔ってる分も相まって余計に可愛く見える。なんだこれこの心理状況完全に男じゃねあたし…。
あたしの腰に腕を回して、じぃと上目遣いで見つめられる。
軽くため息をついてそんな沖田の頭をやんわり撫でれば、沖田は猫みたいな声を出してふにゃりと笑った。
くそう、かわいい。
「今日は帰りなって。さすがに土方とかに怒られるよ」
「あいつの名前は出さないでくだせェ」
「…総悟」
むぅ、とほっぺを膨らませる沖田。
そんな顔しても可愛いだけだぞとほっぺを指先でつつけば、ばっと起きあがった沖田の唇があたしのそれに触れた。
酔ってるせいかな、いつもより熱く感じる。
「明日は、俺の相手してくれやすよね?」
「君が誘いにくるならね」
ちゅ、ちゅ。もう2つ軽いキスを落として、沖田は小さくため息を吐いた。
「相変わらず、史紀は意地悪でさァ」
そりゃどーも、とひらひらと手を振り、名残惜しそうに部屋を出て行く沖田を見送る。
音が出ないようにゆっくり閉めた障子に手をかけたまま、自嘲気味の笑みを浮かべた。
…煙草吸って寝るか。
(どうしたら史紀は俺だけを見てくれやすか?)(見ないよ、誰も)
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