地下の花2



この店に頻繁に来ているらしい過激派攘夷浪士の笹本一派。資料によれば高杉とも関わりがあるらしい。まあまさかそんなタイミング良く吉原に高杉が来てるなんて出来すぎなことは無いだろう。

あたしと山崎の仕事は特にない。
道に面した柵のこちら側で客引きのようなものをして、団体客が入ればそこで酌をしたり座敷遊びのようなものをしたり、といった具合。
客の相手を1対1でやれなんて言われてもさっきの今じゃ無理だしねー。

「史紀ちゃん、ちょっと」
「?はい」

不意に店主に呼ばれ、心配そうな山崎に笑って手を振り席を立つ。
何事かと思えば店主もどうしたものか、と悩んでいる風の表情をしていて。

「どうしたんですか?もしかして何か、」
「ああいえ、そうじゃないの。ただ…」
「…ただ?」
「史紀ちゃんを、買うって方が」

……は?

ぽかんとするあたしに店主は話を続ける。
なんでも1人の男が大金持って、わざわざあたしなんぞをご指名してくれたらしく。
でも今日来たばかりのあたしを、何で。もしかして潜入調査なのバレた?浪人が聞きつけて女のあたしなら御し易しと踏んだか…。

兎にも角にも、行かないことには何も分からない。一応山崎にこのことは伝えておこう。

「わかりました。その人がいる部屋は?」
「3階の角の部屋よ。…それにしても、とても綺麗な方だったわ」

店主がうっとりと微笑む。はあ、綺麗な男…。
うーん、なんか嫌な予感するなあ…あたしの嫌な予感は当たるからなー…。

とりあえず山崎に状況を伝えてから向かうことを告げ、いったん山崎のいる部屋へと戻った。
帰ってきたあたしに顔を上げ、山崎は小さく手を振る。
…いよいよ女らしいなこの子。

「なんか指名、?されたらしくて。もしかしたら攘夷関係の人かもしんないし、ちょっと行ってくるね」
「え…もしかして今回のが、バレて」
「わかんない。そうかもしれないし違うかもしれない。もしそうだったら口止めぐらいは出来るから安心して」
「でも史紀さん、…くれぐれも、」
「無茶はしない、大丈夫。困ったら呼ぶから」

携帯を取り出し、にこりと笑う。
絶対だよ、と念を押した上で山崎も笑い返してくれた。


さて、件の人がいるという部屋の前まで来たんだけど。
この部屋なんかすごい襖からして豪勢そうなオーラ出てるよ何事…え、その男金持ちすぎんでしょどゆことなの。
入りたくねえ、すっげえ入りたくねえ。
でも入らないことには何も解決しないしなあ…なんて部屋の前で悶々と悩んでいたら、唐突にがらりと襖が開いた。

「何ンなとこで突っ立ってんだァ?」
「…な、おま…た、かす…」

驚きとやっぱり、といった感情が混ざり合って言葉にならない。高杉は口をぱくぱくさせて放心するあたしの事なんざ気にせずに腕を掴んでずるずると部屋へと引きずりこんでいく。

「い、嫌だァァア!チェンジ!チェンジぃぃ!!」
「ふざけんな客のチェンジなんか出来るかよ」
「ふざけんなはこっちのセリフだ!」

どさっと畳の上に落とされ、キッと高杉を睨め上げる。そんなあたしの視線にくっくと楽しそうな笑みを漏らして、高杉もあたしの隣に腰を下ろした。

近くにある盆の上には飲みかけの酒。こいつ既に飲んでんのかよとげんなりとしていれば、ついと綺麗な指に顎を掬われた。
かちり、あたしと高杉の視線が絡む。

「女漁りに来てみりゃあ面白いモンが見えたんでなァ、お前の隣歩いてた女、あれは男だろう?」
「、な…」
「テメエがここにいるってこたァ大方笹本辺りでも探りに来たのか?わざわざ女装までしてご苦労なこった」

ただただ、楽しそうに嗤う。
イラッとして眉間に皺を思いっきり寄せれば、ブサイクな面してんじゃねーよと怒られた。ブサイクで結構だよコノヤロー。

「バラすつもり?」
「お前は俺にどうして欲しい?」
「質問を質問で返すなよ、性格悪ぃな」
「くっく、いいぜ?史紀、お前が言うなってんなら黙っといてやらなくもねェ」

高杉はくいっと酒を煽りながら、挑発的な笑みを浮かべる。

どうせ裏があんだろこちとらそんくらい分かってんだよほら言ってみろよただし鬼兵隊んトコに行くとかそういうのは受け付けねーぞ、と一息で言い切る。
そうだなァと高杉は値踏みするように、上から下まであたしをまじまじと見つめた。

「てめえ、いつまでここにいんだ」
「明後日だったはずだけど」
「じゃあその日までお前は俺のモンだ。史紀から俺の所に来たくなるよう調教してやるよ」
「…いやいやいや、」

てめえぐれえの女を3日間買う金ぐらいある、と不敵に笑う高杉。
これは何言っても聞かねーなーとあきらめのため息を吐いて、このボンボンがと吐き捨てた。

「史紀が俺を満足させられたら特別な情報教えてやらァ、やる気出て来ただろ?」
「っは…上等」

高杉にだって相当な数の女経験あんだろうけど、こっちだってそれなりに経験あるんだよね。



 (ビッチの手練手管、舐めんなよ?)



 
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