紅色の空7




数十人の攘夷浪士もしょっ引いたし、腹の傷は真選組に帰る前に病院で手当てしてもらったし、うん大丈夫。怒られない大丈夫。

無傷な千果は1人ですたこらさっさと屯所に帰って行きやがった。この薄情者め。

デジャヴを感じながらも、父親にばれないように朝帰りした娘のごとくこっそりと自分の部屋へと歩を進める。
よっし土方にも沖田にも会わなかったぞと自分の部屋の前で小さくガッツポーズをしていたら、ぽんと肩を誰かに叩かれた。
…デジャヴ。

「…おかえりなさい、史紀さん」

振り返れば、そこにはどことなく切なげな笑みを浮かべる山崎の姿。
ただいま、と若干しどろもどろになりながら返事をする。と、急に高杉に刺された脇腹の部分をぐいっと押された。

「い゙ぃっ!?」

走る激痛。
えっちょっと待って何で山崎そんなことする子じゃなかっただろ、としゃがみ込んでしまった状態で山崎を見上げる。

ひい、怒ってら。

「怪我、してるじゃないですか」
「す、すみません」
「隠してるつもりだろうけど、バレバレですよ。歩き方変でしたし」

さすが監察ってところか…。

とりあえず廊下で話すのもあれなんで、部屋に入り机を挟んで向かい合った。
うわーい説教される雰囲気!
泣かれるよりはマシだけどこれはこれで怖いもんがある。
やだもう帰りたい、ここあたしの部屋だけど。

「傷…深いんですか?」
「いやそんな、あの、かすり傷みたいなもんで」
「じゃあ見せてください」
「勘弁してください」

思いっきり貫通してるんだよそんな傷見せられるわけないだろ。
ホント大丈夫だから、とへらへら笑っていれば、山崎が唐突に立ち上がって大股で近寄ってくる。オーラが怖いですお兄さん。

そのまま後ずさりするあたしの腕を掴み、がっと隊服の裾をまくり上げられる。
もういいよ好きにしろよちょっと萌えたから許してやんよなんて、若干現実逃避。
山崎はあたしの腹部に巻かれている包帯を丁寧に解くと、見えてきた傷口に息をのんだ。

「誰に、刺されたんですか」
「や、それは」
「誰に刺されたんですか!!」

びくり、体が強ばる。
あたしの目を真っ直ぐに見てくる山崎の顔は怒ってるのに、泣きそうで。

はぐらかす、のは失礼か。

小さなため息の後、高杉だと告げた。

「高杉って、あの…高杉、晋助…」
「昨日、港で過激派と穏健派の抗争あったでしょ?あれに混ざってたの、あたしと千果。そん時、高杉にね」

そんな相手とアドを交換したとまでは言えませんけど。ホントなんかすみません。

包帯を握りしめ、ふるふると肩を震わせる山崎。
何かを言いたいけど何も言えない、って感じだった。よくわからないけど。

「でもほら、今までと比べたら大した傷じゃないし」

あたしの体のあちこちに残ってる傷跡と比べればね、うん。
大丈夫だからそんな心配しないでと伝えようとしたら、山崎にぎゅうときつく抱き締められた。
その勢いに従って、あたしの後頭部と畳がごっつんこする。痛い。そんで山崎の体重が脇腹の傷にかかっててうあああ死ぬ。

ホントどしたんすか今日の山崎。
後頭部と腹部の激痛に顔を引きつらせながらも、どうしたのかと山崎の背中をぽんぽんと撫でる。

「史紀さんは、自分の怪我に無頓着すぎです」

ぽつりとそれだけを呟いて、山崎はその後ずっと、無言のままあたしを抱き締めていた。
あたしはそれにどう返せばいいのかわからなくて、どう返せば山崎が笑ってくれるのかわからなくて。

ただ、呆然と天井を見上げることしか出来なかった。



 (そ、そろそろ傷がやばいです山崎さん、あの山崎さん!?)(……)

 
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