紅色の空5


流血表現注意


「あっどうもすみません」

何故か一緒に酒を飲むことになったんだけども。
高杉にお酌してもらうとかレアすぎて往生しそうこれどうしようやばい。今なら死んでも良い。あやっぱだめ。

お猪口についでもらったお酒に軽く口を付けながら高杉をちらりと盗み見る。
目ェ綺麗だなー、まつげ長い。髪の毛さらっさらじゃねーかなに使ってんだ。キセル持ってる指先美しすぎる。なにこれ一枚の絵みたい。
絵になる男ってこういうことか…ひええ目の保養。やばい。

「んで、お前の名は?」
「川崎史紀、一応真選組やってます」
「幕府の犬がンなとこで敵と酒飲んでていいのかァ?」
「まあ肩書きだけもらってる感じであたしはフリーダムにやってますから」

ていうか幕府の犬になったつもりはないです。まあ仕事頼まれたら普通にやるけど。
ふと天導衆の奴のこと思い出してイラッとなり顔を顰めてしまった。あんなろいつかまじ殴る。

「…テメエはここに何しに来たんだ?」
「そうですねー、とりあえず神楽ちゃん救出と高杉に会うのが当面の目的ですけど」
「神楽?」
「捕まえたでしょ?元気いっぱいな可愛いチャイナ娘」
「ああ、あれか」

神楽ちゃんを物扱いすんなよ可愛いんだぞホントに!
若干怒るあたしに高杉はくっくと肩を揺らして笑うだけ。楽しそうだなコイツ。

次の瞬間、唐突に震えだした携帯にびくっと体が震える。マナーモードにしてたんだっけか…びっくりした。
高杉に一言断って通話ボタンを押せば、神楽ちゃんゲットだぜーと笑う千果の声と、元気そうな神楽ちゃんの声が聞こえてくる。
それと同時に外からは地響きにも似た爆撃音が何発も聞こえてきて、ああもう穏健派の奴等が来たのかと小さく眉を寄せた。

「てなわけで神楽ちゃんも無事保護したし、お別れの時間が来たみたいですね」

高杉が注いでくれたお酒の、最後の一口を飲み干しお猪口を盆の上に戻す。
脇に置いていた刀を手に持ち立ち上がれば、高杉の視線がゆっくりとあたしの顔へと向けられた。

「そんな簡単に逃がすと思ってんのか?」
「…え?」

ぶわりと高杉の殺気に包まれ、足が竦む。
なんだこれまじかとか考えながら、頬を伝った冷や汗を左手の甲で拭った。
どうにかこうにか動く足も、僅かに後ずさる程度にしか役に立たない。

その間に余裕そうな高杉はすっくと立ち上がってあたしの目前に迫っていて。

「ちょ、タンマ…」
「悪いが俺ァあんたが気に入ったようでな…逃げるってんなら刺してでもここに残ってもらうぜ」

まじかよ。

あたしが何かを言う前に、高杉の刀があたしの脇腹を深く抉る。
貫通させるとかまじねーよこいつ。やっぱりしょっ引いてやろうか。

がくんと膝から崩れ落ちるあたしの脇腹からはぼたぼたと血液が流れていく。
あーあ、山崎を悲しませるようなことはしないって言ったのになあ。また心配させちゃうわコレ。申し訳なさすぎる。

「少しの間ここでおねんねしといてくれや」
「んっの、バカ杉…!」
「ククッ…そんだけ悪態つく元気がありゃァ死にゃしねーだろうよ」

あたしの首筋に口付けを残して、高杉は静かに部屋から出て行く。
その後ろ姿に思いっきり舌打ちをしてやれば、また楽しそうに高杉は嗤った。


どうする、どうする?
刺された脇腹はバカじゃねーのってくらい痛い。そして熱い。
ずくんと疼くような激痛が傷口から全身に走って、すぐには動ける気がしない。

でも、動かなきゃまた山崎に泣かれかねん。それだけは勘弁したい、まじで。

「と、りあえず…止血…」

芋虫みたいな体勢で隊服の上着を脱ぎ、下に着ていた白いシャツも、ボタンに苦労しながら脱ぐ。
その白いシャツを刺された脇腹にかかるようきつく巻き付ければ、また激痛が走ったけれどもすこしは出血が抑えられた、ような気がする。多分。
その上から隊服を羽織り、刀を杖代わりにして必死に立ち上がった。

こんな痛み生理痛に比べりゃ屁でもねーよくそったれ…!
伊達に斬られなれてねえんだよざまーみろ!

腹に巻いた白いシャツは自分の血を吸ってどんどんと赤く染まっていく。
その裾からぽたぽたと赤い滴が落ちていくのなんて気にもとめず、あたしは部屋から出た。

高杉に一発返してやりたい、銀さん達の手助けになりたい。
でも今は自分が生き残るのが最優先だ。

「がんばれ、あたし…」

景気づけに一発壁を殴って、あたしは歩き出した。



 (こんなところで、立ち止まってられない)

 
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