紅色の空




「おい千果、大変」
「どしたの史紀」

最近頻繁に起きている辻斬りについての資料をまとめていて、気が付いた。
目撃者の証言、生き物のような刀。そして狙われているのは浪人ばかり。

「紅桜編、始まってる」
「ま、まじでか!」

あたし達が万事屋に住んでたらもっと早く気づけたかもしれないけど、あたし達が住んでいるのは真選組だ。
そして紅桜編に真選組の出番は、無い。
こうやって気づけただけでもラッキーかもしれないな、ヘタしたらなんも知らない間に終わってたかもしれない。

「でもわかったとこでどうすんの?私らの出る幕なくない」
「ねーよ?ねえけど、高杉見たい」
「お、おお…史紀歪みないな」

とんとん、と書類をひとつの束にまとめ、机の上に置き直す。
灰皿に置いていた煙草をラスト一口吸って、火を消した。

「てなわけで早速万事屋行くけど、千果どうする?一緒に行く?」
「んー…うん!行く!」
「そうこなくっちゃ」

隊服から私服に着替え、刀を腰にさして屯所を出る。
始まっているとして今どの段階なんだろう。
既に銀さんは似蔵と一戦終えたのか。それともエリザベスがまだ万事屋に来てすらいないのか。

なんにしろ今回は本当に、あたし達の出る幕はない。完全に物見遊山だ。
だって高杉見たいっしょあのイケメンにまだ会ってないんだよあたし。山崎好きになる前は高杉が本命だったしね!

「で、万事屋来たけど…」
「不在、だねえ」

もぬけの空。反応無し。

てことはもうエリザベス来て辻斬りについて探索中?そうとも限らないけど、なんとなくその可能性が高い気がする。
こういう時に銀時たちが携帯持ってないの不便だなあと思いながら、万事屋の階段を下っていった。

「まあ時間はあるしのんびり探すか」
「私、似蔵が出てくる場所なら覚えてるよ」
「えっ、何で」
「だってアニメと映画で何回も見たし、こっちに来て見廻りの最中にあーここだなーって思ってたから」

天才かこいつ。なにその記憶力。

教える代わりに昼ご飯史紀のおごりねーと笑いながら、あたしの前を歩いていく千果。
なんか釈然としないけど、まあ千果がいて良かったな、うん。自分を無理矢理納得させて千果の後を追う。

ファミレスかどっかで昼飯食べて、夕方頃になったらその似蔵が出てくる場所で隠れておこう。
もしかしたら、銀さんの怪我を少しは減らせるかもしれない。


昼ご飯を食べ終え情報収集を申し訳程度にしていたら、似蔵が出てくると千果が言っていた場所に来るのが少し遅くなった。
あたしと千果が来た頃には既に銀さんと似蔵が斬り合いを始めていて。
新八くんが、ちょうど似蔵に斬りかかるところだった。

「新八…っ!」

叫びながら似蔵の腕を切り落とし、銀時をかばうように立ちはだかる新八くんの姿。
意識せず涙が滲みそうになるのを耐えながら、あたしと千果も橋から飛び降りる。
千果は銀時に駆け寄り、あたしは新八くんと似蔵の間に刀を構えて立つ。

「岡田似蔵、これ以上一般人に手を出すなら真選組の川崎史紀が許さない」
「ククッ…真選組かィ。うるさいのも来たようだし、勝負はお預けだねェ」

提灯を持って次々に現れてくる、多分奉行所の人たち。
それをちらりと見やり、紅桜を拾い上げ逃げだそうとする似蔵の行く先を阻んで、刀を突き付けた。

「最近起きてる辻斬りの犯人を逃がすわけにはいかないんですけど」
「お嬢ちゃん、史紀と言ったかね」

言いながら、ぐっとあたしの目前に似蔵が迫ってくる。
その速さに思わず身を引き、刀を取り落としてしまった。

びびるだろ…何その速さ。バケモンか。

「いい顔じゃないかィ、覚えておこう、その名前」

唖然とするあたしの横をすり抜け、走り去っていく岡田似蔵。
その時初めて自分の手が震えているのに気付き、ダン!と岩肌の壁にその手を打ち付け、舌打ちをこぼした。

すぐに首を振り、気を失った銀時を抱えようとしている新八くんと千果の元まで小走りで向かう。
千果には奉行所の人たちへの説明を頼み、あたしと新八くんで銀さんを肩に担いだ。

「…万事屋に連れて行こう。あたし1人でも抱えられるから、新八くんはお妙さん呼んでくれる?」
「え、姉上を…ですか?」
「銀さんが目ェ覚ましたときの保険」

わかりましたと頷き、新八くんは軽く頭を下げて走り去っていく。
あたしは傷だらけの銀ちゃんを抱えなおして、1人、万事屋への道を歩き出した。

重い、気を失った人間ってこんなに重いのか。
いつもへらへら笑いながらのしかかってくる時は、こんなに重くないのにな。

「…ダイエット、しろっての」

ぼそりと呟く。
返事は、なかった。



 (銀さん、)(銀時…)

 
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