月見で一杯2




「そういえば、」

山崎が芒に月の札と芒のカス札を脇に置きながら口を開く。

「千果さんと局長って…あれからどうなんですか?」
「あれからってーと…ストーカーがストーカーされストーカーが退治した事件の、あれ?」
「何ですかその名前…。ま、まあそれです」

いやだって事実じゃん。加害者と被害者と解決者?が全員ストーカーという見事な事件だったじゃん。

「…あたしの見たとこ、進展は無しかなあ。てか山崎はあの2人応援派なの?否定派なの?」

カスとタネが揃ったけれど、こいこいをして場にある紅葉に鹿の札に狙いを定める。
あ、山崎にとられた。やべ。こいこい返しフラグ立ってる。

「お似合いだと思ってますよ。千果さんと局長は」
「ふぅん…意外」
「え、そうですか?」

結局こいこい返しをされ、けずられていく点数をしょんぼりしながら眺める。
やっぱり山崎ってなんだかんだ花札強いんじゃん。

「山崎は土方の腹心の部下、って感じだから、千果と近藤さんの事にも土方と一緒で反対なのかと思ってた」

正直なとこね、と付け足して。
ごくりと酒を喉に流し込めば、山崎はなんとも言えない表情であたしを見つめていた。

「副長は…反対してるってわけじゃ」
「うん、わかってる。土方はただ、近藤さんが大切なだけなんでしょ」
「…、」

肩を落として、小さく息を吐く山崎の頭をやんわり撫でる。

にしてもほんとこの子って土方のこと大好きだよねえ、千果じゃねーけど土方殴り飛ばしたくなる。
こっちは別に邪魔されたり、とかは無いけど。
なんかジェラシー。

「でもま、千果のせいで近藤さんが不幸になるなんてことはあり得ないんだし、まああたしとしては近藤さんとお妙さんのカップリングも捨てがたいんだけど、千果があんだけあの人のこと想ってんだしねー」
「か、かっぷりんぐ?」
「それは置いといて。…千果は近藤さんを幸せにするよ。断言できる。きっとあいつは、近藤さんだけを見て、近藤さんだけを愛して、近藤さんから与えられる愛がこの世で最高の想いだと疑わずにいられる。それって誰でも出来ることじゃないじゃん?千果は、良い女なんだよ」

あたしなんかじゃ、到底出来ないこと。

それが千果には出来る。そんなあいつをあたしは応援したいし、近藤さんにも理解して欲しい。
身長がなに?年齢差がなに?そんなの関係無いと、近藤さんにハッキリと、理解して欲しい。
…それでもあの人がお妙さんを選ぶとしたら、もうあたしには何も出来ないのだけど。


「…史紀さんは、本当に千果さんが大好きなんですね」

月見で一杯、いただきます。と。
あたしの最後の点をとり終えてふわり、微笑んだ山崎が呟いた。

こいこい、負けちゃったなあ。

「なんだかちょっと、妬けちゃいます」
「…え?」
「あ、いや、何でもありません」

顔を真っ赤にして。

今の「え?」は聞こえなかったから言ったわけではなくて、ちょっと山崎くん今なに言いはりました!?え!妬ける!?山崎が!!まじで!!?ごちそうさまです!!…の、「え?」だったんだけど。
いやまあ無かったことにしたいなら私は蒸し返したりしませんけどねうへへ。

「副長もその内、わかってくれると思いますよ。俺はそこまで千果さんと話してないんで深いとこまでは知りませんけど、史紀さんが千果さんのことそんな大事に思ってんなら、千果さんが良い人だってことも副長は知ってると思いますから」
「…ありがと、山崎」

ただなー、土方のバカは千果の身長やらなんやらを気にしてるってとこもあっからなー。そこらをあんまり突いてたらまじでその内、千果に土方刺されると思うんだけど。

酒を飲みながらぼやけば、山崎はくすくすと「それは困りますね」なんて笑った。



 (にしても月見酒ってのも良いもんだよね)(そうですね)

 
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