負の連鎖3
沖田と2人で出掛けていった千果を見送り、携帯を取り出して近藤さんに連絡をとる。
屯所内で見ないとこを見るとどうせお妙さんのストーカー中だろう。仕事しろよ局長。
数回のコール音の後聞こえてきた近藤さんの声は小さく、案の定ストーカー中らしいことにため息を吐いた。
「今どこですか?」
『いやあ最近物騒だからな!お妙さんに万一のことがあったらいけないと思って身辺警護を』
「ストーカーでしょ。お妙さんより今は千果が可哀想なことになってんですけど」
『ん?何かあったのか?』
「近藤さんがふらついてる間に千果にストーカーが出来まして。しかもまあ結構病んでるタイプの」
そこで近藤さんの声のトーンが低くなる。
なんだかんだ千果の事は大事に思ってるらしいし、まあそれは千果が望んでる感情とはちょっと違うみたいだけど。
だいたいの事情と、今千果は沖田と外食中だということを伝える。
「多分ストーカーは千果と沖田を追いかけてると思います。同じストーカーのあんたなら動き方とかわかると思って」
『俺はストーカーじゃないぞ!』
「今はンなこたどうでもいいんですよ。あたしも今から沖田たちの側に向かいますんで、近藤さんはストーカーを捜してくれません?」
わかった、重い声色で呟いた近藤さんに笑みを浮かべ、一言二言交わしてから通話を切った。
携帯をポケットの中にしまっていたら、屯所に戻ってきていたらしい山崎が慌てた様子でこっちに駆け寄ってくるのが見える。
軽く手をあげ「お疲れさま」と声をかけたら、山崎に1枚の写真を手渡された。
「屯所近くのコンビニ店員と、郵便配達員が怪しい男を見かけたと言っていて。コンビニの監視カメラに…顔は見えないんですが一応姿が映っていたので、これを」
「…コイツが」
監視カメラの映像を印刷したものらしい写真を受け取れば、封筒の束を手にレジへと向かっている男の姿が写っていた。
そんなに身長は高くない…170cmくらいか。細身の、どこにでもいそうな男だ。
「この男、足怪我してるね」
「え?…あ、ほんとだ」
よくよく目をこらしてみれば、足に包帯を巻いているのが見える。
これはありがたい、特徴がされあるなら見つけやすいってもんだ。
「んじゃうちらも沖田と千果の後を追おうか。山崎、仕事は大丈夫?」
「はい、大丈夫です!」
「そっか、ごめんね巻き込んで」
「史紀さんも千果さんも、俺達の大事な仲間ですから」
わおイケメン。土方もこんくらい言ってくれりゃいいのにね。無理だろうけど。
ありがとと微笑んで、山崎と共に外へと向かう。
途中、近藤さんにストーカーは足に包帯を巻いている細身の男だとメールで伝え、車の助手席へと乗り込んだ。
運転する山崎はかっこよかったです。
かぶき町についたあたしたちは近藤さんと合流し、沖田と千果のいる店の斜め向かいにある喫茶店へと入る。
この状況、あとで千果にバレたら怒られそうだな。山崎もいるけど、近藤さんがいるし。
「だがそんなすぐに犯人は出てくるんだろうか?」
「出てきてくんなきゃ困りますよ。もうこれ3話目ですよ?そろそろ次の話に入りたいです」
「…史紀さん、何の話ですかそれ」
えへ、と笑って山崎のツッコミはスルーし、3人で話をしているように見せながら周囲を警戒する。
その時あたしの視界の隅に、くすんだ青色の甚平みたいな服を着た細身の男が見えた。
ゆっくりと視線を落とす。右足に包帯。
ちょんちょん、と近藤さんを肘でつつき、目線でその男の存在を伝えた。
男は、何かから隠れるようにこそこそと、沖田と千果のいる店内へと入っていく。
ストーカーの割りにはどうどうと入るもんなんだなあとぼんやり思いながら、どうするのかと近藤さんを見上げた。
「千果ちゃんに犯人の姿は教えてるのか?」
「いえ、まだ。沖田は無線付けてるんであたし達の話は聞いてると思いますけど」
「そうか。俺はあっちの店に今から入る。俺が娘のように大事にしている千果ちゃんをストーカーするなんて、ぶっ飛ばしてやらんと気がすまん!」
どうやらやっぱり近藤さんもご立腹らしい。
千果を付け狙う奴に対して怒ってくれるのはあたしとしても嬉しいんだけど、その理由が、なあ…。
立ち上がって喫茶店を出ようとする近藤さんの背中に、聞こえるか聞こえないかくらいの声で言葉を投げかけた。
「あなたがお妙さんを好きなことも知っています。でも千果はあんたの娘になりたいわけじゃない。本当に近藤さんを好きなんですよ、女として、男としてね。体格とか年齢とか気にしてアイツの気持ちに答えないっていうなら、あたしが怒りますよ」
近藤さんはそれには返事をせずに、ただ片手をあげて喫茶店を後にした。
「さて、と。後はどうなるか見物しておきますか」
「え、俺達は行かなくていいんですか?」
「沖田もいて近藤さんもいんだよ?うちらの出る幕無いって」
それもそうか、と山崎の視線も千果達がいる店の方へと向く。
箱から取り出した煙草に火を付け、にぃと笑った。
「好きな人を不幸にさせるようなストーカーをするんじゃねェェエ!!」
遠くから聞こえる近藤さんの激昂と、窓が割れ吹っ飛んでくる細身の男。
更に追い打ちをかけるように沖田と千果が男に水をかけ、半ばリンチのようなことをしていた。
「な、大丈夫だった」
「はは…なんか可哀想にすら思えますね…」
そうして無事逮捕された男は、近藤さんと沖田と千果によりフルボッコにされ、しかもストーカーとはなんたるやって話を蕩々と近藤さんにされていた。
いやそんな話はしなくていいだろう。
(近藤さんかっこよかったあ!役得だよねほんと大好き!)(ああそう…良かったね)
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