負の連鎖2




あたしの仕事のひとつに、真選組への届け物とか郵便物の管理があるんだけども。
今日も朝起きてすぐ郵便受けに入っていた届け物を確認して、個人へのものは各々の部屋へと持って行く。

基本的には仕事関係の郵便物が局長や副長に、その次に多いのが隊士の家族たちからの手紙だ。
んで、仕事面でもそんなに大した物は任されてなく、もちろん家族なんてこの世界にはいないあたしと千果に郵便物が届くことは滅多にない。
けれど今日は、千果宛の封筒が1つ、郵便物の中に混ざっていた。

サイズは一般的なハガキが入るくらい。そこそこ分厚い。
裏面を見てみれば差出人の名前が無い。切手も貼られていないところを見ると、どうやら直接真選組の郵便受けに入れたらしい。

「あー、アウトな予感」

千果には悪いが、勝手に中身を見させてもらう。
嫌な予感は例のごとく当たり、あたしはため息を吐きながら頭を抱えた。

封筒の中からばらばらと出てきたのは、明らかに隠し撮りである千果の写真。
それぞれの裏側に、日付と場所が殴り書きされている。
一緒に映っていた隊士やあたしの顔は黒いマジックで塗りつぶされていた。ひでーなオイ。

「どうしたんですか?史紀さん、そんなとこでぼーっとして」
「あ、山崎。んーいや…ちょっとね」

言うべきか言わざるべきか。
あんまり余計な面倒事に真選組の人たちを巻き込むのは気が引ける。
どうしたものかと悩んでいたら、不意に手に持っていた写真を奪われた。

「なんでィこりゃあ、史紀には千果を隠し撮りする趣味でもあったんですかィ?」
「ちょっ、違ェよそれは…、って返せ沖田!」

奪い返そうとするあたしの手を軽々と避けながら、沖田は写真を次々に見ていく。
お、入浴シーンもあるじゃねェかなんて言いながら面白そうに写真を見ていた沖田の手が、ぴたりと止まった。
きょとんと、山崎がその様子を眺めている。

「史紀、何なんでさァ、これ」

珍しく深刻そうな表情をしている沖田の目線の先を見やれば、写真に白いペンで何かが書かれていた。
それは千果が、マジックで顔は消されているけど多分、近藤さんに向かってにこりと笑っている写真。


――千果ちゃんは誰にも渡さない、僕だけのお人形にしてあげる。


その文字を見て、さすがのあたしも言葉を失った。
え、なにこれ、気持ち悪いどころの話じゃねーぞ…確かに千果は小さいし顔も可愛いから人形みたいかもしれんけど。

最近千果がストーカーされているらしいことと、今朝郵便受けにこの封筒が入っていたことを沖田と山崎に告げる。
どうやら怒っているらしい沖田が、くるりと踵を返して千果の自室へと歩き出した。
あたしも写真を封筒にしまい、沖田の後を追いかける。

「山崎は最近ここら辺で不審者見なかったか調べてきてくれない?」
「わ、わかりました!」

ごめんね、と両手を合わせて反対方向に走っていく山崎を見送り、すぐに沖田の方に向き直って早足の沖田に歩幅を合わせ、隣を歩き出した。

「どうすんの?千果にこれ見せてもショックなだけだと思うんだけど」
「とりあえず俺が身辺警護につきまさァ。こんだけわかりやすいアプローチしてきてんですぜ?男が千果のそばうろうろしてたらひょっこり出てくるかもしれやせん」
「なーる…」

どうやら怒ってるだけじゃなくて真面目にいろいろ考えてたらしい。

となると、あたしは何をしようか。
千果の側にいるのはストーカーを油断させるためにも沖田1人でいいだろう。

「さっさと終わらせたいしな…」

こうなったら、いっちょ釣るか。

千果の部屋の前に辿り着き、障子を開けようとする沖田の手をぱしりと掴む。
ちょっと考えたんだけど、とあたしの作戦を沖田に伝えれば、彼はにやりと悪そうな笑みを浮かべた。



 (千果、なんか美味いもん食いにいきやせんかィ?)(まじでか行く行く!)

 
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -