甘さの延長線上6



2人の世界に入ってる近藤さんと千果はとりあえず置いといて。

「山崎と土方さん遅いなあ」

先生の話を聞きに行ってるって千果は言っていたけど、そんなに話長いのだろうか。あたしの怪我そんなに酷いのかな。
いやでも痛いのを除けば普通に動けるしそこまでじゃないと思う。多分。
うーんと悩んでいたらがらりと扉が開く音がした。扉の方を向けば、土方と山崎の姿。

「っ史紀さん、もう起きて大丈夫なんですか!?」
「え、うん。ちょっと痛いけど」

飛びついてくるとかいうサービスは無かったけれど、山崎はベッドに駆け寄ってきて心配そうな顔をしてくれた。
心配かけてごめんね、と謝ろうとする。と、突然ぼろぼろと目の前の山崎の両目から涙が溢れ出した。焦る。

「ちょ、や、山崎…!?」
「…めんなさ、ごめんなさい。史紀さん、俺の所為で、俺…っ」
「な、泣かないでよ、ほらあたし大丈夫だから」
「でもっ俺が、もっとあの時しっかりして、いれば」

ずびずびぐすぐす、山崎の涙は止まらない。

この涙があたしの罪なんだろうなと胸が痛くなるのを感じながら、サイドテーブルに置いてあるティッシュをとって、山崎の顔に押しつけた。

「鼻水出てるよ」
「す、すみませっ…」

涙と鼻水を拭いてあげて、くすりと微笑む。
本当に優しい人だと思った。
怒られると思ったのに、泣いて、しかも謝ってくるなんて。あたしにそんな資格ないのに。

「ごめんなさい、史紀さん、ごめんなさい」

せっかく拭いたのに、山崎の瞳からはまた涙がこぼれ出す。
そんな山崎の頭にぽすんと手を乗っけて、軽く撫でた。

俯いてた山崎が顔を上げ、あたしと目が合う。

「あたしは山崎を守りたかった。んで、不格好だけど守ることが出来た。だからもう謝らないで、泣かないで。これ以上あたしを惨めにさせないで?山崎はただ笑って、お礼のちゅーでもしてくれたら、それであたしは満足なんだから」

ぴたりと山崎の涙が止まる。
服の袖でぐしっと目元をこすった山崎は、きをつけの姿勢で困ったように笑った。

「それじゃ、俺…ヒロインみたいじゃないですか」
「山崎はあたしのヒーローだよ」

あたしも姿勢を正して、真っ直ぐに山崎を見つめる。
深呼吸をひとつ、そしてゆっくり口を開いた。

「山崎の制止も聞かずに勝手な行動をしてごめんなさい。それと、守ってくれて、ありがとう」

恥ずかしそうにえへへと笑う山崎。
やっぱり可愛いなあ嫁に欲しいなあなんて結局いつも通りのことを考え始めていたら、ぱこんとファイルのようなもので頭をはたかれた。

「良い雰囲気のとこ悪いが、説教タイム入ってもいいか」
「…いたんですか土方さん」
「最初からいたわァァ!」

てへぺろ。

手渡されたファイルの中身は始末書で、入院中に書いておけとのこと。
今回は反省文を書く必要はないらしい。良かったー。

「三笠梁絵とお前の関係、そいつの最期についても書いておけよ」
「…うん」
「お前は真選組の仕事をしたんだ、それを今更嘆くんじゃねえ。誇りを持て」
「大丈夫、わかってる」

ぺちん、土方にデコピンをされた。
びっくりして思わず顔をあげる。

土方はいつもと変わらない表情で、ため息混じりに呟いた。

「もうバカなことすんじゃねーぞ」
「、…はい」



 (なんだかんだ土方って優しいよね)(うるせェ叩っ斬るぞ)



――
三笠梁絵(みかさやなえ)
40代前半。
攘夷戦争時に夫と娘を亡くし、後に攘夷志士として仲間と共に天人や幕府の要人を狙ったテロ行為を行う。
平時は団子屋の店主として1人で店を切り盛りしていた。
団子屋の裏路地にて史紀に討たれ死亡。

個人的にはもっと掘り下げて書きたいなと思った人でした。


 
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