甘さの延長線上5


流血表現注意


「っ史紀さん!?」
「へーきへーき…ちょっと力抜けただけ」

梁絵さんの死体に背を向け、山崎に肩を貸してもらいながらパトカーの停まっている表の通りへと向かう。
けれど、血を流しすぎたらしいあたしの足はうまく動かなくて、どさりと地面に崩れた。
山崎まで一緒に転けさせてごめん。ほんとごめん。

立ち上がるのも一苦労で、もう視界もぐらぐらしている。このまま気ぃ失いそう。

「死ねェェ幕府の犬がァア!!」

ふらふらしつつもやっと立ち上がれたところで、あたしも山崎も油断していた時に。
どこかに隠れていたんだろう残党が、頭上から刀を振りかざし飛び降りてきた。
やべ、このままじゃ斬られる。

せめて山崎だけでも守らなきゃと動いたあたしの体は、けれど怪我の所為でたいした動きもできなくて。
山崎があたしの名前を呼びながら、かばうように抱き締めてくる。
嬉しいのに嬉しくない、こんなんでもし山崎が大怪我でもしたら。

「ふざっけんなデカブツ!」
「「…へ、」」

ぎゅうと閉じた目をゆっくりと開けば、足下には頭から真っ二つにされ息絶えた浪人の姿。わーおグロテスク。
一瞬で血の海になったそこから避け、浪人を真っ二つにした犯人に目をやる。

「千果…おま、あー…」
「史紀大丈夫!?すっごい怪我じゃんやばいって。救急車ァァア!!」
「こんな時までボケんじゃねーよ…」

そういえばこいつ沖田並かそれ以上ってくらいに強かったんだっけ。
あたしは生きてるのもラッキーなんじゃねぇかってくらいぼろぼろなのに千果は擦り傷が少しあるかないかって程度の怪我しかしていない。なんだこれヘコむ。力の差が歴然すぎてやばい。

「お前そのうち車素手で止めそうだよ、な…」
「いや神楽じゃないんだからそれはないよ!ってあれ、史紀?史紀ー!」
「史紀さんっ!」

なんかヘコみすぎてあたしの意識はそこで途切れた。


――…


目を覚ませば真っ白い天井にカーテン。薬品の臭いが鼻をついたとこで、ああ病院かと気付く。
頭や体中のあちこちにまかれている包帯、左腕には点滴が繋がっている。ほっぺにガーゼが貼られているのに気が付いて、そんなとこも怪我してたのかと自分でびっくりした。気付かなかった。

脇腹がまだずきずきと痛むけれど、起きあがれない程じゃない。ゆっくりと起きあがれば、タイミング良くカーテンがしゃっと開かれた。

「あっ史紀起きた?おはよー」
「おお…他の人は?」
「山崎と土方は先生と話中ー。沖田と近藤さんは今から来るって」

そっかと頷いて、サイドテーブルに置かれていたフルーツのかごからみかんを発見し手にとる。
久しぶりのみかんうめーなんて思っていたら、病室のドアが開く音。
それに続いて千果の「史紀目ぇ覚ましたよー」の声と共に、近藤さんと沖田がどどどっと雪崩れ込んできた。びっくりしてみかん落としちゃったじゃねーか。

「史紀が1人で先走ってったって山崎に聞いた時は肝が冷えやしたよ。それ聞いて千果も1人でさっさと行っちまいますし」
「重ね重ねすんません…」

怒る気力すらもう無いらしい。
沖田はあたしの首に腕を回して抱きついてくると、生きてて良かったと小さな声で呟いた。
心配をかけてごめんと、ありがとうの気持ちをこめてあたしも沖田を抱き締める。
ぽんぽんと頭を撫でている時にふと視線を上げれば、近藤さんがじっとあたしと千果を見つめていた。

それはそれは、怒っている表情で。
無言が怖い。怒鳴られる前に謝ろうと、沖田をそっと引き離して近藤さんに向き直ったら、あたしが口を開くより先に千果がしゃべり出した。

「そ、そんな怖い顔しないでよ近藤さーん。私全然かすり傷だし、史紀も生きてるし、」
「ふざけてるのか!!もう二度とあんな真似するな!」
「ひぇっ」
「っ、」

激昂する近藤さんなんて初めて見た。
病室中に響くような声で怒鳴られ、あたしと千果は縮こまる。

近藤さんは少しの間をあけて、見るからにしゅんとしている千果の頭をやんわりと撫でながら、あたしの頭もぽんぽんと軽く叩いた。
おや?扱いが違うぞ?

「…あまり心配をさせないでくれ…。2人とも、無事で良かった」
「ごめんなさい…近藤さん…」

やだすごいフラグ立ってる。もうあたしのことなんて見えてないよ2人の世界だよ。

思わず沖田と目を合わせて、呆れ笑いを浮かべながらやれやれのポーズをしてしまった。



 (何でこの人ら付き合わないのかね)(ですねィ)

 
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