甘さの延長線上3


流血表現注意


燃えさかる火の中、焦げていく人間の臭いに吐きそうになる。
幾人もの浪士を切り捨てて行きながら、梁絵さんの姿を探した。きっとどこかにいる。いるはずだと。

大量の浪人相手にあたし1人が余裕綽々でいけるわけもなく、既に体のあちこちが傷だらけだ。
これはまた確実に怒られるパターン。特に今回は山崎の制止を振り切って行ってるから山崎にも怒られかねん。そんなことになったら1週間くらい落ち込むな。

なんてしょうもないことを考えながらも、浪人が現れれば斬り、燃える火で開けることも出来ない扉を蹴り開け、梁絵さんを探す。
しばらく団子屋の中をうろついていたら、裏口に通じる扉を見つけた。
大量の足跡と血痕。ここから何人もの人間が逃げていった可能性が高い。

遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくるのを確認して、裏口に続く扉を開けた。

「や、な…えさん」
「おや、史紀じゃないかい」

その先にいたのは、何十人もの浪人達。
誰が敵で誰が味方かもわからないような状況で、斬り合いを続けている。

そんな地獄絵図のような状況の中で、先陣切って刀を振り回している女性。
見紛うはずもない、その人はいつもあたしと千果と、何気ない話をして笑いあっているその人だったんだから。

「梁絵さん…やっぱりあなた、過激派攘夷志士の1人、だったんですね」

周囲にいる人間を斬り、梁絵さんは立ち尽くすあたしに歩み寄ってくる。
そんな梁絵さんを守るように他の浪士がこっちに向かってきた別の浪人に斬りかかっていった。

どうやら、梁絵さんの立場はそれなりに高いものらしい。
ヘタしたらトップかもしんない、びびるね。

「あんたには知られたく無かったんだけどねェ…ここで真選組と攘夷志士として会っちまったからには、仕方ないね」
「…そうですね」

どうしてと、聞きたかった。
でもこんな顔をしている梁絵さんに、そんなことを聞けるはずがなくて。

「真選組だァァア!!」

次の瞬間、土方、沖田を先頭とした何人もの真選組隊士達が裏路地に集まってきた。
反応して刀を構える梁絵さんに、あたしも刀を握りなおす。

「攘夷、辞めるつもりはないんですよね?」
「無いわ。天人の奴等は旦那と娘を奪ったのよ?あの戦争さえ無ければ、あいつらさえこの星に来なければ、わたしは1人にはならなかったんだから!あいつらはみんな殺してやる!!」

なーる、と心の中で納得しつつ、斬りかかってきた梁絵さんの刀を刀で受け止める。
鍔迫り合いのような状況になり、ぐっと顔を近づければ梁絵さんは泣き笑いのような複雑な表情を浮かべていた。けれどそれも次第に、憎しみ一色に染められていく。

「史紀さん!!」
「っー山崎!」

ばっと梁絵さんがあたしから離れたのと同時に、山崎がかばうようにあたしの目の前に立った。
顔が見えないのにすごい怒ってるオーラが漂ってくるんですけど。やべーよこれ珍しく山崎がご立腹だよ。

「…史紀、あんたはいいね。守ってくれる男がいるじゃないか。わたしは全部…あいつらに奪われた…」
「梁絵、さん」
「何で?わたしが何をしたって言うの?何でわたしの大切な人を奪うの!?許さない、わたしの愛してやまない人を奪ったあいつらを、天人を、わたしは絶対に許さない!!」

叫びながら、山崎を斬ろうと飛びかかってくる梁絵さん。
あたしには好きな人や大切な人を喪った経験なんてないから、その気持ちがわかるはずもない。
わからないけど、間違ってると思った。

目の前に立つ山崎が梁絵さんの刀を受け止める。すぐさまそれを振り払うように動けば、梁絵さんの刀は弾かれ遠くに飛んでいった。
けれど。

「邪魔をするなら、真選組も、史紀も、わたしの敵よ!!」
「山崎…っ、!」

ずくん、左の脇腹が熱を持つ。
左の脇腹に、脇差しが深く刺さっていた。

梁絵さんが刀を弾かれた直後に投げようとしたそれ。気付いたのはあたしが山崎の一歩後ろに立っていたからで、それを投げようとする手は山崎の位置からは見えるはずがなかった。
どうにか山崎を押しのけてかばえたけど、それで自分に刺さってちゃ意味がない。
思案し終えたところで、がくりと膝から崩れた。

「史紀さん!」

山崎があたしに駆け寄り、体を支えてくれる。
膝をついた体勢で見上げた梁絵さんの表情は、やっぱりあたしには読み取れなかった。



 (わからない。だけど、それでも)

 
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