甘さの延長線上2




最近、天人の大使館を狙う爆破テロや幕府の要人の暗殺が頻発している。
あたし達が駆り出される程に、真選組は大忙しだ。
どこそこで爆破が起きただのどこそこで浪人に襲われただの、通報を受けたらその場に大急ぎで向かい、怪しい奴等を片っ端からしょっ引いては大元の火種を探す。
滅多に無いこの忙しさは、日頃はニートなあたしとストーカーが本職になりつつある千果にはなかなかハードだった。特にあたしが。

「その内死ぬ」
「縁起でも無いこと言わないでくださいよ」

そして、なんやかんやで捜査線上に浮かんできたのが1つの攘夷党。名前は忘れた。
50人前後の攘夷浪士で構成された、完全に過激派の連中。その拠点がもしかしたらここかもしれないと下っ端の浪人達から聞き出した場所に、今あたしと山崎で張り込んでいる。

まさかそこが、あの団子屋だなんて思いもしなかったけど。

「ここの店主は?」
「現在はいないようです。他の人間が出入りしてるのも見あたりませんね」
「…そう」

梁絵さんは、攘夷志士なのだろうか。
それとも脅されて、あの団子屋を拠点として使わせているのか。あるいは…。

浮かんでは消えていくいくつもの考えに、無意識に頭を押さえてため息を吐く。
張り込み中には煙草が吸えない。臭いで気取られる可能性があるから。
ストレスが半端じゃない。せっかく山崎と2人きりだと言うのに、あたしはさっきからしかめっ面しかしてないじゃないか。なんてこった。

「史紀さん、この団子屋の店主と親しかったんですよね…?やっぱりこの仕事、他の隊士と代わった方が、」
「大丈夫」
「でも…」
「いざとなったら斬る覚悟ぐらいは、あるから」

考えたって仕方がない。
梁絵さんが攘夷志士だったとしたら、ただ脅されているだけだとしたら。そんなの今のあたしに分かるわけがないんだから、考えるだけ時間の無駄だ。

煙草代わりのあめ玉を口内で転がしながら、山崎の頭をくしゃりと撫でた。

「心配してくれてありがと」
「…史紀さん、」

笑って見せたとこで、山崎の表情は変わらない。
眉尻を下げて、心配そうに唇を真一文字に結んでいる。
もう一度「大丈夫だって」と微笑み山崎の頭をくっしゃくしゃにしてやったら、そこでやっと、山崎も曖昧な笑みを浮かべてくれた。

「あっ、史紀さん、あれ…」
「穏健派の、飯塚…?」

団子屋に人が入っていくのに気付いて視線を向ければ、そこには指名手配中の攘夷志士である、飯塚という男の姿。そしてその背後をぞろぞろと続く、おそらく飯塚の仲間であろう浪士達。

何で穏健派の彼らがここに、と思ったのも束の間。

鼓膜が震えるほどの爆発音と、それなりに離れた位置にいたにもかかわらず頬を撫でる熱風に、あたしは大きく目を見開いた。
その爆音に呼応するように連鎖していく、いくつもの爆発音。そして、浪士達が斬り合う音と声。

やっぱりあの団子屋は過激派攘夷志士達の拠点として使われていたのだという確信と、梁絵さんがいったいどうなったのかという不安が胸をしめる。

「山崎、土方に連絡。手の空いてる隊士全員呼んだ方がいいかもしんない、この状況じゃ」
「は、はい!」

穏健派と過激派の抗争が始まったんだ。
両者の人数を合わせれば100人は行くかもしれない。そしてその中にはきっと、梁絵さんもいる。

「ごめん、あたし先に行く」
「えっちょ、史紀さん待ってくださ…史紀さんっ!!」

山崎の手をすり抜けて、燃えさかる団子屋の方へと走っていく。
刀を抜いて、外でドンパチやらかしてる奴等に聞こえるように、叫んだ。

「真選組だ!ご用改めである!」



 (ちょっとこれ言ってみたかったんだよね、なんて余裕のふり)

 
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