甘さの延長線上




梁絵さんという人がいる。
女手一つで団子屋を切り盛りしている、元気な女性だ。年は30代後半くらいだったか。
元気で、綺麗で、いつも面白い話をしてくれる、いい人。素敵な人。
あたしと千果が懐くまで、出会ってからそう時間はかからなかった。

「あんたまだあの人追いかけてるのかい?女は追われる方が幸せになれるわよ」
「私は近藤さん一筋なんですー!他の男なんて興味ありませんっ」
「まだ若いのに、勿体ないねェ」

団子を頬張りながらぷりぷりと怒る千果に対し、梁絵さんは大人の余裕でかっかと朗らかに笑っていた。
そんな2人を眺めて、あたしも笑みを浮かべながらお茶を啜る。


当然だけど、この世界にあたしと千果の親はいない。
家族間の仲は決して悪くはなかったあたし達にとってそれは少なからず寂しくもあった。

だから梁絵さんの存在は、お登勢さんや他の女性陣達とはまた違う温かみのある、母親のようなもので。

「そういう梁絵さんは気になる男とかいないんですか?若くて綺麗だし、男共がほっとかないと思うんだけど」
「ほぉへふよ!ははへはんふっほふひへいはほひ!」
「千果、何言ってっかわかんねーぞ」

くすくすと肩を震わせて笑い、梁絵さんはあたし達の隣に腰をおろす。
虚空を見つめるように目を細めて、うっすらと口角を上げた。その表情が何を物語るのか、あたしにはまだ理解できなくて。

「こんなおばさん、もうもらい手なんていやしないよ」
「…そうっすかね?」
「全然まだいけると思うのになあ」
「世辞ばっか言っても団子のサービスはしないよ!」
「「ちぇ、バレたか」」

そしてまた3人で笑う。
のんびりと流れていくこの時間が好きだった。


万事屋や真選組では感じられない雰囲気。
梁絵さんの笑い方や、話し方、凛とした声。
立ち方1つでも、普通の女じゃないことは分かる。これでも、結構な時間を真選組で過ごしたのだから。

何かを隠してるだろうことも知っていた。
でもそれを、わざわざ暴こうとは思っていなかった。


この時間を、あたしはただ、壊したくなかったから。


「じゃあ梁絵さん、また遊びに来ますね」
「今度来るときは土産も頼むよ」
「了解でーす!」

でも、そんな平和な時間に限って早く過ぎていくものだと、壊れやすいものだと。
あたしと千果は、知っていた。



 (あたし達が幕臣だったから)(子供だったから、いけなかったのかな)

 
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