退屈な遊園地
高級料亭に連れてってやるという甘言に釣られたあたしが悪いのか。
千果と2人でお好み焼をもぐもぐしながら傍らの話に耳を傾け、千果と目を合わせた後、2人して深いため息をついた。
ここにいるのは近藤さん、土方、沖田、そしてとっつぁんこと松平さん。
それプラスあたしと千果だ。何でうちらまで呼ばれたのかなって思ったけど多分とっつぁんご指名なんだろう。あの人なんだかんだでうちらのこと気に入ってる風だったし。特に千果を。
「決戦だよ。奴も、奴の企ても全て潰す」
「…そうか、とっつぁんがそのつもりなら、俺達の命もアンタに預ける」
どうやら話は粗方終わったらしい。
立ち上がった松平さんは、部屋を後にしながら笑みを漏らした。
「フン、頼りにしてるぜ」
このシーンだけ見るとかっこいいのになー、もったいないなー。
うちらもこの後の茶番に付き合わないといけないのかな、ものっそめんどくさいんだけど。
去っていく松平さんを土下座、これ土下座っていうのかな。なんか意味合いが違うような気がするけど…まあいいや、土下座で見送る近藤さんら3人。
あたしと千果はのんきにお好み焼きを口に運ぶ作業。だって美味しいんだもの。
松平さんが見えなくなって顔を上げた近藤さんが、ゆっくりと振り返って口を開いた。
「トシ…総悟、ひとつ確認しておきたい事がある」
「なんだ?」
「…奴って誰かな?」
「知らねーのかよ!!」
そりゃ知らんわな。松平さんずっと奴としか言わなかったもんな。
まあ知ったかぶる近藤さんも悪いけど。聞くべきことはちゃんと聞いておこうぜ。
「うっかりな近藤さんもかっこいい…」
「え、そうかな?はっはっは照れるなー!」
「「お前らバカだろ」」
意図せず土方とハモってしまった。
最近は近藤さんもだいぶ千果とうち解けてきたようで。
さっさと籍入れればいいのにと呟けば横からふざけんなと土方に小突かれた。やっぱりお前は反対派か。
「ところで千果、あたしらも栗子ちゃんのデート邪魔しに行くの?あたしめんどいんだけど」
「何言ってんの史紀、行くに決まってんじゃん」
「おお…えらく乗り気だな。お前そんな栗子ちゃんのこと好きだったっけ?」
3人から離れ千果とこそこそ話していたら、千果の表情がその瞬間変わった。
満面の笑顔。これだけ見たら可愛いと思えなくもない。もともと愛嬌ある顔だしな。
でもなんかこうそこはかとなく、黒い。黒いっていうかなんかもう背後に般若の面が見える。こわい。
「だって近藤さんが今年に入って13回も振られたんだよ?私がいるのにおかしいね?それに栗子ちゃんには近藤さんみたいな質実剛健な男が似合うんだって私と近藤さんの方がお似合いなのにおかしいね?しかも栗子ちゃんには近藤さんみたいに豪放磊落な男が似合うんだって私こんなに近藤さんのこと好きなのにおかしいね?栗子ちゃんみたいな女の子にはチャラ男はともかくせいぜい土方程度の男で充分だと思うんだ史紀もそう思うよね?」
「そ…そうだね…」
声裏返った。
いやだってこえーよ満面の笑みで息継ぎせずに言い切ったよなんだこいつ。
しかもその質実剛健とか豪放磊落とかのセリフってこの後近藤さんが言うやつだろ。何で漫画の内容をセリフまでまだ覚えてんだよこえーよ。さすがのあたしもそこまでじゃねーよ…多分。
山崎のこととなると性格変わるみたいなことを土方に言われたことあるけど、千果も近藤さんのこととなると性格変わるよな…ほんと…。
「近藤さんっ!私もお供しますから、一緒に奴らを倒しましょーね!」
「ん?おう!千果は珍しく乗り気だな!」
「もちろんですっ!」
だめだもう千果の笑顔が笑顔じゃないものに見える。
しかも今さっき「奴"ら"」っつったよあいつ。栗子ちゃんまでも獲物だよ。近藤さんと絡もうものなら殺ることも辞さない勢いだよ。栗子ちゃん逃げて全力で逃げて。
「…あたしも行くしかないのか」
お好み焼きの、最後の一口を飲み込んで、がっくりと項垂れた。
(近藤さんに近寄る女は許さないよー!)(程ほどになって言いたい…言えない…)
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