工場と記憶2




「あっ史紀」
「おおう千果、お前そんなとこにいたのか」

運良く合流できたあたしと千果のいる場所、大砲の真下。
いやよくバレずにここまで来られたなあと我ながら感心するわ。なんだかんだあたしと千果って影薄いもんな。

あたし達の存在に気付いた山崎に、しぃと人差し指を口に当て黙っておくよう伝える。
記憶の無い状態のままらしい銀さんと近藤さんはきょとん顔。
そろそろ沖田が撃ってくる頃だろうなと思いつつ、屯所の武器庫から拝借しておいた小さな脇差しっぽい刀を山崎達の方に投げ飛ばす。

「あたし天才じゃねこれ、やばくね?」
「やばいよ史紀今のは天才すぎるわ」

その刀は見事に3人の拘束を解いた。ちょっとこの瞬間動画に撮って保存しておきたかった。もったいない。

兎にも角にも自由の身になった山崎を抱え銀時の手を引く。
千果が近藤さんに抱きついた辺りで、沖田の砲撃があたし達のすぐ側に直撃した。
うおう、破片が腕かすった。

「撃ったァァァ!撃ちやがったよアイツらァァ!」
「なんですかァァあの人達!ホントにあなた達の仲間なんですかァ!?」
「仲間じゃねーよあんなん!局長、俺もうやめますから真選組なんて…、アレ?局長と千果さんは?」
「あいつらならあっこに吹っ飛んでったけど」

山崎テンションたっけーなーと思いつつ千果と近藤さんが吹っ飛んでいった方向を指す。

壊れた屋根の破片に引っかかってぷらーんとなってる近藤さんの体に巻き付くように千果があたふたしていた。おまえほんと何してんの。沖田レベルに強かったよなお前。
そんで近藤さん、頭…あの、頭…。

「まるで長い夢でも見ていたようだ」
「局長、まさか記憶が…ていうか頭…あと千果さん…」
「史紀助けて落ちるゥゥゥ!!」
「ああ、まるで心の霧が晴れたような清々しい気分だよ。山崎、色々迷惑かけたようだな」
「いえ…ていうか頭…と千果さんが…」

近藤さん一切千果に触れねえ…小さいとはいえ1人分の体重支えてんのにまったく触れねえ…大丈夫かこの人まだどっか頭打ってんじゃねーのか。あっ打ってたわ。打つどころか刺さってたわ。

「でも意外とここ近藤さんのぬくもり感じられていいかもしんない…」
「もうお前はそれでいいよ」

親猿に抱きつく小猿みたいになってる千果はほっとこう。本人幸せみたいだし。

さっさと逃げないとまた沖田が無駄に砲弾撃ってきそうだし、千果の存在無視して行くぞと先陣きりだす近藤さんの後を追う。
山崎は姫抱きしようと思ったけど両手ふさがるから俵担ぎにした。んで反対の手で銀さんの手を引く。
やだあたし男らしい。体力上がってて良かった。

「あ、あの貴女は…」
「通りすがりのヒーロー、ですかね」
「何言ってんですか史紀さん!おろしてください!」

慌てる山崎かわいい。
敬語な銀さんは想像以上にきもい。いやこれはこれで好きだけど。

「まあまあ2人とも落ち着いて、飛び降りるからしっかり捕まっといてよー」
「えっ」

どうにか銀時の体も支えるようにして屋根から飛び降りる。
転けつつも無事に着地出来たことに安心するのも束の間、真選組の砲撃に対抗するようにマムシも大砲を撃ってきた。

ひええさすがにあれ当たったら死ぬよな。いや死にはしないか?いや死ぬだろ。
銀時の手を引き山崎を担いだまま猛ダッシュ。隣を見れば千果は走る近藤さんに抱きついたままぬくもりを存分に感じていた。おまえいい加減自分の足で走れ。

と、砲撃があたし達に当たりそうになる。
銀時と山崎に怪我をさせるわけにはいかない。全力を込めて2人を安全な方へ投げ飛ばしたと同時に、近藤さんに押しのけられた。あらイケメン。
なんて思う間もなく、直撃は免れたもののあたしも砲撃に巻き込まれた。

「ってぇー…」

しこたま打った頭を押さえて周囲を確認する。
あれ、なんかあの、あれ?もう全部終わったみたいな感じっすか?あたし何しに来たのこれ。

ふと視界に入ったのは万事屋3人組の背中。
うん、まあ、ハッピーエンドならそれでいいんだけど。なんだこの報われない感じ。

遠い目をしながら自分のすぐ近くに転がっていた2つの人影に視線を向ける。
お互いがお互いを守るようにして気を失っている、千果と近藤さん。なんだお前ら結局ラブラブか。さっさと結婚しろチクショー。

「大丈夫ですか史紀さん!局長と千果さんも…」
「体は大丈夫だけど心はブロークンだよジミー…」
「ジミー!?それ俺のことですか!!?ってか局長と千果さんは…」
「ん…?」
「あ、気が付いた」

千果が身をよじり、近藤さんもうっすらとまぶたを開く。
そしてハッキリと目を覚ました2人の表情を見て、あたしと山崎の顔がひくりと引きつった。

「「君たちは、誰だ?」」



 (…どうします、これ)(2人とももう一発大砲で撃ってやれよ…)

 
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