工場と記憶




ある朝、書き置きと共に千果の姿が消えていた。

『近藤さんと一緒にマダオ工場行ってきます』

…いやうん、マムシ工場だし。なんだよマダオ工場ってマダオ量産すんのかよいらねーよ。

そういえば山崎も密偵に行くとか言ってたなあ。
なんでいつの間に記憶喪失編始まってんの聞いてないよ。あたし除け者?
万事屋の子達もなんも話してくんなかったし。どうしようお姉さん寂しい。

「史紀ー、今からマムシ工場に行くんですが一緒に行きやすかィ?」
「あたしを除け者にしないのは沖田だけだよ愛してる」
「何ですかィいきなり、照れやす」
「かわいいいなあああ沖田はもうううう」

とりあえずハグしておいた。ちゅーされた。かわいい持って帰って女装させたい。

まあそんな邪な気持ちは置いといて、今は銀さんと山崎を助けに行かなきゃか。
近藤さんは千果がどうにかするだろうから知らね。


――…


到着したマムシ工場は思ったよりでかく。
おおー本物だなんて思いながら爆音をBGMに写メを撮っていたら、目の前でゴッと鈍い音が聞こえた。すっごい痛そうな音だった。

「はーい危ないから下がりなさーい。この人のようになるよー。ポーカーフェイスを気取ってるけどものっそい痛いんだよー、恥ずかしいんだよー」

あっこのシーンか。うわあ生で見られるなんて感激。黙って聞いておこう。
にしても土方後ろからわかるくらい血ぃ出てるけど大丈夫なのかそれ。

「エライ事になってるな」
「土方さんもエライ事になってますぜ」
「これ山崎の野郎死んだんじゃねーのか」
「土方さんも死ぬんじゃないですか」
「山崎は死なねーよふざけんな土方死ね!」

黙って聞いとこうと思ったのに口挟んじゃった。だって山崎が死ぬとか言うから。

背後にいた原田があたしの一歩前に出て、工場内に近藤さんもいることを告げる。
そういえばあたし知ってるのに伝えるの忘れてたね。みんなもう知ってるかと思ってたわ。

「オイオイ山崎1人なら見捨てようかとも思ったが」
「てめえ土方オイコラ山崎をなんだと思ってんだ殺すぞ」
「近藤さんがいたんじゃそうもいかねーな」
「無視すんなコラ土方おい死ねよ」

笛を忘れたという沖田に二度と戻ってくんなと告げた土方の膝をローキックでカックンしてやったら思いっきり怒鳴られた。いやだって無視するから。
つーかマイエンジェル山崎を無碍に扱うあんたが悪いんじゃね!

「史紀お前山崎のこととなると性格変わるよな」
「そんなことないですよ〜やだな〜」
「目が据わってんぞ」

いやいやそんなまさか。

ただちょっと山崎を危険な目に遭わすとかまじマムシの蛮蔵だかなんだか知らないけど全裸で馬に繋いで市中引きずり回してやろうかって思ったりしてるけどいやいやそんな、ねえ?
なんてことを考えてる間にマムシの独り言は終わったらしい。

土方の頭に照準を合わせて大筒を用意する沖田をとりあえず写メっておいてから、あたしはそっとそこから離れていった。

だってほら、あたしには山崎を助けるっつー任務が、ね。ほらあるから。



 (あいつの前で山崎けなすのやめとこう)

 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -