頑張るシャイボーイ




かりかりとシャーペンを走らせながら、無意識に左手で煙草の箱を探す。
途中でああ禁煙させられてんだっけと思い出して、仕方なく近場にあったイチゴ味のあめ玉を口内に放り込んだ。

土方に命じられた反省文。
とりあえずどうにかこうにか100枚までは書き終えた。残り300枚。もう書くことねーよ。そんで怪我まだ完治してないから腕が痛えよ。

あからさまにイライラしているあたしを見て、障子の方からくすくすと笑い声が聞こえた。

「笑ってないで文章考えるの手伝ってよ山崎ー」
「すみません、副長に一切手伝うなって言われてるんで」
「あたしより土方のが大事だってか…」
「そういうわけじゃありやせんけど」

なんて言いながらも笑うのはやめない。
何がそんなに楽しいんだ!そんな笑ってもかわいいだけだぞちくしょう!据え膳すぎる!!

どうやら前の見張りをしていた隊士がブチギレモードだったあたしにすっかりびびったらしく、土方は見張りを山崎に代えた。
曰く、山崎相手だったらあたしもおとなしくしているだろうと。…うん、よくわかってらっしゃる。
でも念のためにって刀は没収された。さらばマイ刀。

「山崎ー」
「何ですか?」
「煙草買ってきて!」
「ダメです」
「…だめ?」
「可愛く訊いてきても、ダメです」

…チッ。

可愛いって言われたからまあ今回はいいや。
でももう禁煙初めてだいぶ経つし禁断症状が!ね!やばいよね!イライラ半端無いよね!

「山崎がちゅーしてくれたらイライラ治る」
「…あはは、ダメですよ史紀さん。真面目に反省文書かないと」
「じゃあぎゅー」
「ー…史紀さん…」

あ、照れてる。かわいい。
机にぐだっと体を預けながら山崎の方へと顔を向けて、にやにやと隠しもせずに顔をゆるませる。

山崎は真っ赤になった顔でゴホンと咳をひとつすると、からかわないでくださいとそっぽを向いてしまった。そんなとこも可愛いぜ嫁においで。

「からかってないのに」

さして気にしてはないけれど一応ぶーと不満げな表情を浮かべて、あたしも山崎から顔を背けた。
土方に渡された反省文用の紙に、小さく山崎の顔をラクガキする。その横に俺の嫁と書いておいた。
我ながら会心の出来…後で写メって千果に送ってやろ。そう思っていたところで障子の近くに座っていた山崎が動く気配。

足音が近づいてくるのを感じながら心の中で、山崎が頭を撫でてくるのに1票を入れる。
山崎は優しいけど結構シャイボーイだからなー、ぎゅーとかちゅーは無理でしょ。
沖田や銀時なら簡単にしてくるけど。

ラクガキの横にハートマークを描いて中を塗りつぶしていたら、その右腕をがしりと掴まれた。
あれ、頭撫でてくんなかった。
にしても腕掴むって?これあたしどうすればいいの。予想外だよ。
とりあえず掴まれ引っ張られる右腕に合わせて顔を山崎に向けた、んだが。

「山ざ、んむ?」

んんん?何がおきた?

目の前には山崎の顔。ドアップで。
んで目瞑ってる、必死そうでかわいい。意外とまつげ長いなとか考えてしまった。
あと唇。やらかい。温かい。

「イチゴ味、ですね」

え…あ、ちょっ、これ。

「っっうわあああああ!!?」
「うわああああああ!!」

びっくりした!びっくりして山崎からものすごい勢いで離れてしまった!でも突き飛ばさなかっただけあたしグッジョブ!てかびっくりしすぎてあめ玉口から飛び出るかと思ったわ!
そんであたしのびっくりに更にびっくりする山崎かわいいな!なんなんだお前もう天使か!ばか!好き!

「っあ、の、ご…ごめん、なさい」
「な、なんで、謝るんですか」

何であたし山崎に敬語使ってんだ。これじゃどっちがどっちかわかんねーよ。
いやでもなんか口が勝手にだな!

山崎は膝立ちの格好で、壁に背を付いたあたしに向かって少しずつ近づいてくる。
それにまた驚いてバックしようとしたけど、既にもう限界点まで来てることに気付いてひぃと心の中で鳴き声をあげた。
やばい、もう、顔が熱い。燃える。顔から火が出るとはまさにこのことである。

「嫌、でした…?」

切ない顔で切ない声出すなよばかやろううう押し倒したくなんだろーが!ビッチなめんなよ!
もう見るからにしょんぼりしてる山崎が可愛くて可愛くて仕方ない。仕方ないけどあたしもあたしで忙しいんすわ。

だって山崎と初キス。初キスですよちょっと!今までの人生で嬉しかったことベスト3に余裕でランクインですよ!
パニックにもなるっていう!

「い、いやあの、嫌とかじゃ全然、ただあのですね、あんま近づかないで欲しいって言うか」
「えっ…やっぱり、」
「ちちちち違うんだって!顔が!」
「…顔?」

ああ不思議そうな顔する山崎も可愛いなあじゃなくてですね。

今あたし顔真っ赤だと思うんですよ多分。だってめちゃくちゃ熱いもの。今熱はかったら確実に8度超えてるよ。インフルものだよ。
だから、そんな変な顔山崎に見せるわけにはいかない。
ウオオオオ冷めろあたしの顔ォォオ!

「史紀さん、真っ赤だ。可愛い」
「はっ!?」

いつの間にやら目の前に、山崎が迫ってきていた。



 (うわあああバカ!!好き!!!)(バカ…って、えぇえ!?)

 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -