演劇の鑑賞者8




「へいにーちゃん、ちょっと面貸せや」

煉獄館まで来た怒り心頭なあたしの、目前に立つ天導衆の男。
視線の先には警備の天人達の死体、そしてその上にあぐらをかいて座るあたしの姿。

「お主とまた会うとは思わなかった」
「あたしもですよ。まぁた天導衆の腐った面拝まなきゃいけないとは思いもしませんでしたわ」
「これはまた、嫌われたものだな」

クック、肩を震わせて嗤う男はいたく余裕そうだった。
あたしに殺気が無いことに気付いているからなのか、それとも。

まあそんなことどうでもいいんだけど。

「あんたとさあ、約束しましたよねぇ?あたしが5戦やる代わりに鬼道丸解放するってさあ。何殺してくれちゃってんの?」
「なに、また別のところで利用してやろうと思ったのにあやつが我らの目の届かぬ場所に逃げようとしたものでな」
「別にいーじゃねぇか逃がしてやりゃあ。似たような駒なんざいくらでも持ってんだろ」

一歩、また一歩と、男はあたしの近くへと歩み寄って来る。
間合いの中に入ってきたところで、右手に握っていた刀をその眉間に突きつけた。
男の笑みが深くなる。

「そうだな、そこで死んでいるような奴等と同じ駒も、いくらでもいる」

次の瞬間、背後のドアからわらわらと大量の天人が溢れ出してくる。
うへえこれ倒すのは骨がいりそうだ。

ぐるりと囲まれ退路を断たれた状況で、男はにんまりと口角を三日月のように歪めた。

「お主が我らの元に来ると言うのならこやつらには手を出させぬぞ。どうする?」
「万が一衣食住に困ったとしても、てめえらの世話にだけはならねーよ」
「そうか、残念だな。この駒はなかなか気に入っていたのだが」
「勝手に駒扱いすんなや」

男の笑みが消える。その姿も天人の中に紛れて、消えて。

――殺せ。と。
天人の群れの向こうから、声だけがしっかりとあたしの耳に届いた。
同時にあたしに群がるように飛びかかってくる、天人共。

腕一本ぐらいは無くなっても仕方ないか?
さすがに腕斬られたら痛いだろうなあ。うわ銃持ってる奴もいるよ。死ななきゃいいんだけど。
こんな漫画のコマにも映ってなかったモブに殺されるなんて、死んでも死にきれねーわ。

「あたしなんか所詮、本気出したとこで沖田にも勝てねーくらいの弱さなのによー」

ぼやきながらも、刀を振り回した。


――…


その後は無我夢中だった。

左腕と肩と右足に銃弾3発、腹に刺し傷と背中に切り傷。
うん、まあ、生きてるだけ良しとしよう。

…動けないけどな!

あーどうしようこのままここでぶっ倒れたままだったら出血多量で死ぬ気がする。お願ぇします誰か見つけてくだせえ。
あたしの祈りは天に届いたらしく、その数分後にやってきた隊士に見つけられすぐさま病院に連れて行かれた。


鬼獅子及びその他の煉獄館関係者はほぼ倒して捕まえることが出来たそうで。
そこら辺は原作通りらしい、後から沖田に聞いた話だけど。


そしてあたしの禁煙+自室謹慎の期間は1ヶ月から、治療期間も併せて3ヶ月に延長された。反省文も勿論ある。
いっそしにたい。生きるけど。



 (無理しすぎだろおまえ)(もう無茶しないでくだせェ)

 
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