演劇の鑑賞者7
また屯所に戻れば、自分の部屋に積んでいたカートンをすべて没収され、ポケットやら棚の引き出しやらにもしまっていた煙草も取り上げられ、ついでに灰皿とライターまで持って行かれた。
完全に禁煙させる気満々だよ。代わりに大量のあめ玉とガム置いてってくれたよ。こんなん代わりになるかァァア!ていうかさっきの会話の不必要さ!
しかも自宅っつーか屯所謹慎じゃなくて自室謹慎。部屋からも出られない。なにこれいじめ?
部屋の前には見張りの隊士までいるしさあ。
ちょっとまじで本格的に脱走計画練っておいた方がいいかもしれない。
そんなことを考えてあめ玉を口の中でころころしていたあたしの携帯が、机の上で震えだした。
無機質なバイブ音が、室内に響く。
ああもう嫌な予感がするなあ。
ディスプレイに映し出された土方の名前を見て眉間の皺を深めながら、通話ボタンを押した。
「――…そっか、わかった」
あたしの予感は、嫌なことばかり当たる。
本当に、嫌なことばっかり。
それは、道信さんが死んだことを、伝える電話だった。
ぱたんと携帯を閉じて、机に置く。
小さなため息を吐きながら立ち上がり、クローゼットを開いて隊服を取り出した。
あまり着る機会のない、形だけの隊服。
それに腕を通し、さっき机の上に置いた携帯をポケットに入れ、壁にたてかけたままの刀を腰にさした。
がらり、障子を開けば見張りの隊士がすぐさま振り向いて。
「史紀さん、出てはいけませんよ。副長に叱られます」
「うん、知ってる」
「なら…」
でもごめん、と呟いた。
今のあたしは自分でも珍しいくらい、キレてる。
だって、ねえ?こんなの怒らない方がおかしいっしょ。
「ちょっと、根性たたき直してやんなきゃいけないドアホがいるんだよねえ。あんたは怒らないよう土方に言っとくから、見逃して?」
「で、すが」
「見逃さないなら力ずくで行く」
一息で言い終えたその言葉に、隊士の頬に冷や汗が浮かんだ。
そして数瞬のためらいの後、道を空ける。
「ありがと」
彼のすぐ横を通り過ぎてすたすたと屯所内の廊下を歩き出した。
早く煉獄館に。鬼獅子やらは銀時達がどうにかしてくれる。あたしが用があるのはそっちじゃない。
あの天導衆のクソ野郎。
あたしとの約束破りやがって。
絶対1発殴ってやる。
苛立ちを込めて、渾身の力で屯所の門を開いた。
(偉い奴だからって何してもいいと思うなよ)
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