演劇の鑑賞者5
そして真選組の屯所に戻ってきたものの、相も変わらずあたし正座。沖田仁王立ち。
今回の件を独断で進めたこと、危険な場所に1人で入り込んだこと、その他諸々を併せて1時間強の説教。
こんなに沖田話せたんだなと心の底で思ったのは秘密だ。真面目な話する沖田こわい。
「…わかりやしたかィ?何か言うことは」
「申し訳ありませんでした」
「心がこもってない」
「すみませんでしたァァア!!」
バズーカ構えられたよ。今どっから出したんだよそれ。今まで持ってなかったよね?君四次元ポケットでも持ってんの?
4話の可愛かった沖田はどこに行ったんだろうなーあははー…。遠い目になるわ。
「まあもう終わったことをどうこう言っても仕方ありやせん…。でももうこんなこと、絶対、金輪際、しないでくだせェよ?」
「…善処す」
「しないで、くだせェ」
「――、うい…」
そこでやっと、沖田の顔がほんの少しゆるめられる。
すとんとあたしの前に腰を下ろし、ぎゅうときつく抱き締められた。
抱き締める力はどんどん強くなる。
潰れる、なんて思いながら沖田の背に腕を回そうとしたら、あたしの手が沖田に触れようとした瞬間、視界がぐるんと動いた。
「え、あの、沖田さん?」
お、押し倒された。
あたしの顔を挟むように床に腕をついて、あたしを見下ろす沖田の表情はまさにドS。すっごいイイ笑みを浮かべてらっしゃる。これはやばい。
冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべるあたしのほっぺを、ぐにぃと思いっきり引っ張られた。
「…いはいんはへほ」
「何言ってるかわかりやせん」
痛いんだけどっつったんだよばかやろう。
お前がほっぺ引っ張るからうまく発音できなかったんだろーが!
「史紀は自由奔放ですからねィ、また悪さしねーようにちゃんと躾けとかないと」
ぱちんとほっぺを離された。ひりひりする頬を左手で撫でる。
ドS全開の笑みを浮かべる頭上の沖田。
やっべーなーこれあたし死ぬかなー、生きて帰れるかなー。ヤられる前に遺書残した方がいいかもしんないなー。
なんて軽く現実逃避をしながら、目を細めて沖田と視線を合わせた。
一瞬、沖田の笑みが消える。
「それでも、あたしは明日もあそこに行くよ。まだ1戦残ってるし」
「行く必要ありやせん」
「それじゃあいつらとの契約が反古になる。そしたら鬼道丸…道信さんがまた人斬りに戻らなくちゃいけない。あたしは利吉の父親をもう奪わせたくない」
「史紀…お願いでさァ」
くしゃり、前髪を軽く掴まれた。
それは撫でるように、弱々しいものだったけど。
「俺は、あんたを失いたくないんでィ」
沖田の瞳にちらりと浮かぶ、暗い炎。
失いたく、というよりは喪いたく、かな。
どっちもかもしれない。
そりゃあんなとこにいたら死ぬかもしんないもんなあ。多分死なないと思うけど。
鬼獅子さえ出てこなきゃね。あれには勝てないだろうし。
怒って、笑って、そして今の沖田は泣きそうだ。
あたしの為に…あたしの所為で、くるくると表情の変わる沖田は見ていて楽しいとすら思う。大概あたしも歪んでる。
「あたしがいなくなっても、あるはずのない1がまた0に戻るだけだよ」
ゆっくりと沖田を引き離し、立ち上がった。
丸く見開かれた沖田の目があたしを映す。その視線の意味を知る気なんて、ない。
「ごめん、あたしもあたしの世界を護るのに、必死なんだ。あたしが何もしなくたってこの世界は普通に廻る。それは、あたしの存在が認められないようなものなんだよ」
さっき沖田があたしにやったように、撫でるくらいの強さで沖田の前髪をくしゃりと掴む。
そのままさらさらの髪をすくように撫でて、分かれた前髪の隙間から覗いた額に、唇を落とした。
「あたしはそんなの、耐えられない」
史紀、と沖田があたしの名前を呼んだ気がした。
けれどあたしは振り返らずに、部屋を後にした。
(世界って、何なんですかィ…)(あたしがこの足で立つ場所だよ)
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