演劇の鑑賞者4




突然だけど、あたし正座って嫌いなんだよね。
足しびれるじゃん?その後立てないじゃん。んで立ったら立ったでふらつくしうまく歩けないしで大変じゃん。
しかもびりびりからこうじわじわくるアレがさあ、触られたらうひいいいってなる感じのアレがさあ、やばいじゃん?
だから正座嫌いなんだよね。昔茶道習わされたけどクソ食らえって感じだった。茶菓子と抹茶は大好きなんだけども。

「おい、現実逃避すんな史紀」
「サーセン」

そんなわけで万事屋なう。

あたし正座。目の前で銀時と沖田仁王立ち。その背後で何故か新八くんと神楽まで仁王立ち。定春は寝てる。
すっげこええ、逃げたい。

「で?知り合いのガキに頼まれて?鬼道丸って奴を辞めさす代わりにお前が人斬りやって?」
「俺らに相談もせず一人で問題片付けようとしたんですかィ?」
「ちょ、あのすんませんドSコンビさん顔、顔コワイ。コワイっつーかもう恐い。新八くん助けて」

なんだかんだで厳しい沖田や銀時に比べて、新八くんはあたしに甘いところがあるから、助け船を期待して視線を向ける。
けど、新八くんの表情もすっげ恐かった。ちびるかと思った。

「史紀さん、事情があるのはわかりますけど、僕も今回のことはどうかと思います」
「私にも相談してくれないなんて酷いネ!」

あ、うん、だめだこりゃ。みんな説教モードだ。甘い期待してすんませんでした。

「とりあえず旦那達はその鬼道丸って奴のとこに行ってみてくだせェ。まだ煉獄館の奴等と関わりがあるかもしれやせんし」
「史紀はどうすんだ」
「一応、史紀も真選組の人間なんで。連れて帰ってしこたま説教してやりまさァ」
「そーごくん顔コワイぞ!」
「史紀は黙っててくだせェ」
「すんませんした」

あたし謝ってばっかな気がする。

いやでも待てよ?今回別に誰かに迷惑かけたわけではなくない?
明日ある残り1戦を終えれば鬼道丸っつーか道信さんも晴れて自由の身、あたしは斜め下ら辺の方向に成長もできる。
煉獄館はまだ取り締まれないけど土方が言ってたように腐った実はそのうち勝手に落ちるだろうし。

むしろあたし良いことしてる方じゃね?怒られるのおかしくね?

そんな顔をして沖田と銀ちゃんの方を見上げたら、もうこれ紅桜編とか真選組動乱編でしか見たことねーよと言いたくなるくらいの怒った顔で黙殺された。
うん、ナマ言ってすみませんでした。
一応何で怒られてるかぐらいは理解してますすみません現実逃避したかっただけです。

「じゃあ史紀、帰りやすよ」
「うい…」

しびれた足でふらふらと歩き、戸を開けて進んでいく沖田の後を追う。
と、ぱしっと左手を誰かに掴まれた。
銀さんかと思って振り返れば、それは新八くんの手で。

「ちょっと待ってください、史紀さん、怪我してるじゃないですか」

言われて見てみれば左手に一本の切り傷。
さっきので切れてたのか、気付かなかったななんて思いながら、こんなの舐めときゃ治るよと小さく微笑む。

そんなあたしに対して、心配そうに揺れていた新八くんの目が、キッと鋭く細められた。
お姉さんそんな新八くん見たくないよ。

「ダメです!!ばい菌入ったらどうするんですか!沖田さん、ちょっと待ってください。史紀さんの怪我の手当てするんで。ほら史紀さんはそこ座って!」
「お、お母さん」
「誰がお母さんだァァア!」

思わず呟いた言葉にツッコミを入れられ、反射的に黙ってしまう。
すげえあたし相手にこんな強気な新八くん初めて見た。いっつもなんか初恋なうな感じの小中学生みたいな雰囲気だったから。しかも女子の。

てきぱきと新八くんは消毒液を染みこませた綿で傷口を軽く消毒し、ガーゼを貼り、包帯を巻く。
早いな、手当てし慣れてらっしゃる。

終わった手当てにありがとう、とお礼を言えば、新八くんはひどく悲しそうな表情で、あたしの傷口を包帯の上から撫でた。



 (僕に出来るのは、これくらいだから)

 
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