演劇の鑑賞者
かぶき町の一角に、あたしと千果が気に入って頻繁に通っている駄菓子屋がある。
そこでしょっちゅう顔を合わせるせいか、仲良くなったというか懐かれた子供がいた。
名前は利吉。7歳の元気いっぱいなショタ…あーゴホン、男の子。
今日は千果が近藤さんと一緒に、というか近藤さんを追いかけて、出張へ少し遠くの地方に行ってしまったので、あたし1人である。
沖田も山崎も仕事だもんな、こういう時あたしも仕事した方がいいのかなって思うわ。
一応たまにしてんだけどねえ…。
ため息をついて携帯を弄りながら、店の軒下にあるベンチに座ってきな粉棒をかじる。
きな粉棒美味しいよね、あまくて微妙にもちっとした食感で。
「ねーちゃん!」
「ん?お、利吉」
ぱたぱたと駆け寄ってきた利吉の手にはねりあめ。あれ最初くっそ硬いよな。美味しいけど。
あたしの隣に腰を下ろし、一昨日ぶり!と笑みを向けてくる利吉。今日もかわいい。
よしよしと頭を撫でてきな粉棒いる?と問いかければ、そんなじじくさいのいらないと即答された。
じじくさいって…切ない。
「ねーちゃんってさ、真選組の、偉い人なんだよね?」
しばらくの間黙ってねりあめの割り箸部分を持って練り練りしていた利吉が、不意に呟く。
偉くはないが、一応真選組には所属している。
こういう時は松平のとっつぁんの適当さがありがたいよね。あと微妙な懐の深さ。
「うんまあ、そんなとこ」
「俺のね、お願い聞いてくれる?」
「大人はねー、なにか対価が無いと動かない生き物なんだよー」
しょんぼりした気配が隣から漂ってくる。
ちょっとしたいたずら感覚のつもりだったんだけど、思ったより深刻な話なんだろうか。
利吉はねりあめを左手に持ちながら、服の中を探り出した。何か無いか探してるのか。
きな粉棒をもきゅもきゅしながらその様子をしばらく眺めていたら、泣きそうな顔でビー玉をひとつ、差し出された。
海を切り取ったような青色の、ビー玉だった。
「こんなのしか、なくて…」
うぇ、と小さな泣き声が聞こえてくる。
泣かせたいわけじゃなかったんだがなあと頬をかきながら、そのビー玉を受け取った。
太陽にかざせば、それはもっと綺麗に見えた。
「ごめんね利吉、いじわるして。お願いってなに?」
「ううん、あのね」
先生を助けて欲しいんだと、利吉は涙声で呟く。
深く話を聞いてみれば、その先生とは捨てられていた利吉を拾って育ててくれた、父親代わりの人であるらしく。
そこから、嫌な予感はしていたんだが。
「なにか、危ないことをしてる気がするんだ。それが俺たちのためだって、わかってるんだけど、俺たちはただ先生と一緒に暮らしてたいだけなんだ。だからもし危ないことしてるなら、やめて欲しくて、でも俺たちにそんな、ことっ言う、権利なくて」
ぐすぐすと、最後の方は鼻を啜る音に紛れて聞き取れなかった。
けど、話の内容はわかった。
自分の記憶力を呪いたくなりながら、頭を抱えて心の中でぼやく。
煉獄館の話か…。
これだけじゃまだ確証は得ないけど、9割方合ってるとみて良いだろう。
きな粉棒を飲み込んで、利吉の頭を撫でながら問いかける。
「その先生の名前、教えてくれない?」
道信先生だと、利吉は答えた。
(ですよねえ)
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