地元に一週間滞在している間は、姉さん達と出掛けたり地元の友人と遊んだりとそこそこ有意義に過ごすことが出来た。
帰る予定にしていた日は母が仕事だったので、またもや佐助さんの世話になることとなる。この人は他に仕事がないんだろうか。ありそうなのだけど。

「つっても俺様の仕事って真田の旦那の世話だからさー。延長線みたいなもんだよ」とは佐助さんの弁である。
幸村さんもそれなりに私を気に入ってくれたらしいので、いつでも助けになるよう言われたそうだ。複雑だと思う。ありがたく受け取りはするが。

家から駅までを、この一週間ですっかり乗り慣れてしまった佐助さんの車で送ってもらう。
時折話題を提供してくれる佐助さんには適当に相づちを返し、窓の向こうの景色を眺めた。未だにそれらは、現実感を伴って脳へと伝わりはしなかった。


駅のロータリーに車を停め、お礼を言って車外に出れば佐助さんも荷物を出すため車を降りる。
後部座席に乗せていたキャリーを佐助さんから受け取れば、佐助さんは両手を腰に当てて私の顔を覗き込んだ。真面目な顔をして何を言うのかと思えば。

「家に着いたらちゃんと美野里さんに連絡すること。結婚式の時は家まで迎えに行くから、予定ちゃんと組んどいてね」

まるで保護者のような発言である。
はあいと間延びした返答をし、そこではたと発言の後半部に疑問符を浮かべた。

「……って、え?家まで来んの?」
「電車と新幹線乗り継ぐの面倒でしょ?春佳ちゃん、ぶっちゃけあんま結婚式行きたくないみたいだし」

そう言われると思わず閉口してしまうのだが、さすがに佐助相手とはいえ車で数時間かかる道のりを迎えに来てもらうのは忍びない。
私は車の免許を持っていないから運転を交代することも出来ないし、何より高速代は佐助持ちってことになってしまうだろう。いやお金に関しては後でどうとでも出来るのだけど……、この人があっさりそれを受け取ってくれるかどうか。

「家まで迎えは、さすがに。普通に新幹線で帰りますよ」
「いーからいーから。ここは大人の言葉に甘えときなさい」
「大人、って……」

五つしか変わらないのに。

しかし、新幹線の時間も迫っている。ここで押し問答をする訳にもいかない。バイト先にお土産も買って帰らなきゃいけないし。
暫く時計と佐助さんとを交互に見て、ううんと悩む。そうして、ため息を吐いた。

「……わかりました。予定決まったら、母さんに連絡入れます」
「ん、いい子!」
「解せぬ……」

小声で呟いたはずなのに、どうやら佐助さんには聞こえてしまったようだった。
気にしないでおこうと思う。

「じゃあ、送ってくれてありがとうございました」
「どういたしまして。気をつけて帰るんだよ」

頷きとお辞儀を同時にして、キャリーをごろごろと鳴らしながら背を向ける。
エスカレーターに乗ってからちらと視線をおろせば、佐助さんはまだ私を見つめていた。視線が合って、軽く手を振られる。……会釈だけで返せば、不満そうに唇を尖らせていた。


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