私と佐助さんが先に入った某焼肉店は、晩ご飯時だからかそこそこに混んでいた。
予約をしていた個室に案内されれば、テーブルが二つ。話を聞けば、母も後から合流するらしい。
と、なると。片方のテーブルに姉さん達が座るのだろう。子供達も合わせれば席はそう振り分けられるはずだ。……佐助はこっちに座るのか。

とりあえず、と靴を脱いで左側のテーブル、下座に腰を下ろす。癖というほどのものでも無いが、家族で食事に行くときは私が最も出入り口に近い場所に座るのが常だった。父母が上座、姉は私の隣だ。そんな形で食事に行ったのももう遠い昔の事だけど。

「……あれ、春佳ちゃんそこに座るの?」
「何か問題ありました?」
「や、……問題は無いんだけど」

佐助さんは暫し困ったように下足入れの前で立ち竦み、小さな息を吐いて靴を脱いだ。
そして、私に奥に行くよう告げ、隣に腰を下ろしてくる。

……うん、まあ、そうなりますよね。ごめん。

「全ッ然考えてなかった……」
「何でそんな嫌そうな顔するの」

思わず顔を覆って項垂れてしまった私を、佐助さんはちろりと睨む。水を持ってきてくれた店員のお兄さんに少しばかりぎょっとされてしまった。

この席に座るメンバーを考えれば、下座に座るのは私か佐助だろう。どうやら真田家は上月家……というか母さんに恩義があるらしいし、上座を譲るのは自然と思える。
とは言え、テーブル単位で考えるなら右側のテーブルの方が奥にあるので、幸村側の方が上座なのだが。
ともかくその状態で、佐助の立場を考えるのなら、私は母が座るであろう向かいの席につくべきだった。失敗した。だから佐助さんは少し困惑してたんだろう。

「俺様の隣が嫌なら移動してもいいけど」

佐助さんは僅かに腰を浮かす。
「動くの面倒だから大丈夫です」とそれを手で制して、まあ、結果オーライかと考えた。
だって私が奥の席に座ったら。ほんの僅かな通路を挟んで、幸村が隣に座ることになる。
……そんな目に遭うくらいなら、佐助の身体に隠れて焼肉を貪っておくほうがずっとマシだ。

「とりあえず適当に頼んどいていいですか」
「いんじゃない?俺様どうせそんなに食べないし」
「……そうなんだ?」
「本来はこの場にいる事すら微妙なとこなんだよ」

それは私もだと思いながら、曖昧に笑って頷く。
しかし、お偉いさんの家はなんやかんやと面倒臭いんだろうなあ。きっと幸村やお館様なんかはそこまで厳しく気にしていないんだろうけど。という理想。

ざっとメニューを見てから、いつも頼んでいるので良いだろうと呼び出しボタンを押す。
姉さん達の方は姉さん達が来てから好きに頼むだろう。前の旦那の時もそうしていたし。取り敢えずはこっちのテーブルの分だけを注文すれば、店員のお兄さんは妙な思案顔で頭を下げて去っていった。
……うん、まあ、八人座れる席で男女二人が隣り合って座ってたら、意味深顔にもなりますわな。

注文したものが来るまで、暫く暇になる。ツイッターを開いて『今日は焼肉だーい』なんて呟きながら、そういえばと佐助さんに言葉だけを向けた。

「佐助さんって何歳なんです?」
「その質問に答えたら、さっきの質問に答えてくれる?」

スマホから目を離し、怪訝そ〜に佐助さんを見つめる。にこにことしていた。

「……なんか質問されてましたっけ」
「えぇ……忘れるの早すぎでしょ」
「興味ない事は忘れる質なんで」
「そこまでハッキリ言われると逆に気持ちいーわ……」

表情がなんとも言えない笑みに変わる。ぐすん、とまでは言われなかったので別段傷付いてもいないんだろう。言ったところで傷付けちゃったかとも思わないが。
実際に何かを問われた記憶が抜け落ちていたので、首を傾げてみせる。佐助さんは溜息混じりに「俺様のこと、どう思ってたかって訊いたでしょ」と呟いた。ああ、と頷く。

「まあ別に隠すほどのものでも無いんでいいですけど」
「じゃあさっき答えてくれても良かったのに」
「めんどかったんです」

今度は、ぐすん、と言われてしまった。

「俺様は二十八歳だよ。アラサー」
「こう言うのも申し訳ないですが佐助さんがアラサーってちょっと面白い」

二十八歳ということは、私の五つ上か。姉さんの二つ上、と考えるとそんなおっさんとは思わない。
佐助がそんくらいなら小十郎なんかは三十路いってんじゃなかろうか。うわーめっちゃ見たい。

「じゃあ、幸村さんは?」
「俺様さっき答えたじゃん。次は春佳ちゃんの番だよ」
「チッ」

年齢の話でうっかり忘れていてくれれば良かったものを。
ついつい漏れてしまった舌打ちなんて気にも留めず、佐助さんは答えを急かす。
しかし佐助さんに会うまで佐助の事をどう思ってたのかと訊かれても、その答えを簡潔にまとめるのは難しかった。私はキャラの扱いを割ところころ変えるタイプなのだ。

「言葉選ばずに言うんで、気を悪くしないでくださいね」
「うん、春佳ちゃんが言葉選ばないの今更だし」
「……。とりあえず最初はやたらウザい忍だと思ってました。忍ぶ気ねーなこいつって。で、次は、あれ…?可愛いんじゃね…?ってちょっと目覚めて、シリアス佐助まじ格好いいになって」
「うんうん」
「つい最近はウインクする佐助あざとすぎ殴ろうって気持ちでいっぱいでした」
「ちょっと待とうか」

うんうん、の辺りは「ほら〜やっぱり俺様モッテモテ〜!」みたいな顔をしていた佐助さんが、どえらい真顔に何故か冷や汗を浮かべながら私の両肩を掴む。
「その感想はおかしい」と首を左右に振られたが、おかしいもクソもそう思っちゃったんだから仕方なかろうに。
現代で佐助さんがどんだけ女の子にモテてるかは知ったこっちゃないが、ゲームのキャラクターに対して割とぞんざいな扱いをしちゃうのは仕方ないだろう。だって会ったらみんな倒さなきゃいけないんだもの……。

「うん、じゃあ質問変えよう。俺様のこと好き?」
「今度は私の番でしょう」

そんなことをしていたら、七時を五分ほど過ぎたところで、姉さん達がやって来た。
私の両肩を掴んでぶんぶん揺さぶってた佐助と、佐助の胸ぐら掴んでほっぺを引っ張っていた私とを見て、幸村…さんがひっくり返りそうになってたのは、割愛しておく。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -