ワッフルをもさもさ食べている佐助さんを、ストローを咥えながら見上げる。
ワッフルはともかくとして、ついてるバニラアイス美味しそうだなあ。私もアイスくらいなら注文すれば良かった。
そんな思考を察されたのか、「一口いる?」とフォークに乗ったワッフルを差し出される。違う、そっちじゃない。なんて心の中で我が儘を発揮した後、大丈夫ですと首を振った。

「なんというか、あの……電波だと思われるのは心外なんで聞きづらいんですけど」
「うん?」

口をもごもごとさせる佐助さんに、かわいいなちくしょうと胸の内で悪態擬きをつく。

「……佐助…さん、達?って、えーと……うーん」

何て訊いたらいいものか分からず、今度は私が口をもごもごとさせてしまう。
終いにはストローを噛み始めてしまった私を、呆れ笑いのような顔で見下げて、佐助さんは助け船を出してくれた。
「春佳ちゃん、俺様達のこと、知ってたでしょ?」と。……頷いておく。

「たまにいるんだけどね、そういう子。ここまであからさまな反応したのは、春佳ちゃんが初めてだよ」
「そうなんですか」
「大体の子はただのそっくりさんだと思うから。……俺様達の関係を知ってるわけじゃあるまいし、単体だけを偶然見かけたら、そうとしか思わないでしょ?」

まあ、確かに。頷く。
私も、例えば街中で佐助さんだけを見かけたのなら、うわすっごい佐助にそっくり!ほぼまんまじゃん!くらいのノリで済ませただろう。見かけたのが幸村だとしても、信玄公だとしても、それ以外の人だったとしても、それは同じ事だ。
幸村と佐助、をセットで見かけたとしても、こんなことあるんだなーくらいの気持ちで終わらせられるかもしれない。

でも、佐助さんが幸村さんに仕えてて。お館様に世話になってて。真田と武田という名家がある。……もうそこまで知ってしまったら、私には"そう"だとしか思えない。

「転生とか、そういう感じ?なんです?」
「うーん……まあそう言うのが一番しっくり来るんじゃないかな。俺様やお館様なんかは多かれ少なかれ記憶を持って産まれてるけど、そうじゃない人もいるから……ちょっと微妙なとこだけど」
「はあ……」

なるほど、と三回目の頷き。
自分の欲に駆られて「記憶を持ってないのは……例えば?」と問いかける。佐助さんはなんとも言えない笑み……恐らく苦笑のようなものを浮かべて、「そうだなあ」と指を折り始めた。

「まず真田の旦那。あと俺様の知る限りでは、凶王さんやかすがも記憶を持ってなかったはずだよ。聞いた話だと北の……いつきちゃん?とかも」
「そ、そこら辺もいるんですか……」
「婆娑羅者って呼ばれてた奴らはみんな居るみたい」
「日本こわい」

異様に喉が渇いた気がして、アイスティーをストローで喉に流し込む。
私の感想を聞いた佐助さんはけらけらと笑って、溶けかけのアイスを口に含んだ。口端にアイスがついたことを教えれば、へらりとして指先で拭う。反対ですけど。

「他に訊きたいこと、ある?」
「特には。大体今の説明で納得しました」
「そっか。じゃあ今度は、俺様から質問」
「……は?」

アイスが取れていないことに気付いたのか、今度はペーパーナプキンで口元を拭う。そうして笑みを貼り付けた佐助にひやりとして、ストローを再び噛んでしまった。私の悪癖だと思いながら、噛み痕のついたストローを見下げる。
いいよね?と言葉を続ける佐助に、怖々としながら、頷いた。四度目だ。

「春佳ちゃん、彼氏はいるの?」
「は?」

予想外すぎる質問と、母親のような物言いにやや威圧的な疑問符が出る。
ほら早く答えて、だなんて急かされて、訳の分からぬまま首を振った。

「いないですけど」
「ふうん。何年くらい?」
「えー……?四、五年ですかね」
「好きなタイプは?」
「……ノーコメントで」

幸村だなんて言えるわけもない。
佐助さんは一瞬不服そうにしたものの、すぐにまた笑みを貼り付けて質問を続けた。

恋愛に絡むような質問ばかりをされて、やや不機嫌げな表情になってしまう。意図の読めない質問攻めは嫌いだ。好きな人なんていないと思うけど。
私の表情にそろそろ切り上げ時かと気付いたのか、佐助さんは「じゃあ最後に」と人差し指を立てた。五度目、頷く。

「俺様のこと、どう思う?」

……思わずははっと笑ってしまったのは、許して欲しい。

「今となっては手慣れたナンパ男だなとしか思えないです」
「じゃあその前は?」
「質問。さっきのが最後でしょう?」

腕時計を見せる。そろそろ良い時間だ。
佐助さんも待ち合わせに遅れるのは問題なんだろう。仕方なさそうに肩をすくめて、残り僅かなコーヒーを飲みきった。


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