「ねえ春佳ちゃん、海行こう!」
「なんか似た発言をこの前も聞いた気がする」

夕食後、テレビを眺めていた佐助がパッと勢いよく顔をこちらへ向けてくる。ちらとテレビへ視線を向ければ海の特集をしていて、なるほど、と神妙な顔で頷いた。
その頷きを同意のものと受け取ったらしい佐助は、まず水着を買いに行かなきゃな〜とウキウキしながら近場にあった雑誌をめくり始めた。先週辺りに私が買ったファッション誌だ。時期が時期だから、水着特集も組まれている。

「いやでももう海の時期終わってない?行くならプールでしょ」
「……行ってくれるの?」
「行こうっつったの佐助ですよね?」

ここ数年水着とか着てないし、行くならそれもアリだなあと思ってみればこの反応。日頃の私の対応が悪いんだろうとはわかるが、そういう反応をされるとじゃあ行かねーよとなってしまう。あまのじゃくである。
とはいえ、最近の暑さを考えるとプールに行きたいとはやはり思う。佐助と二人で行くのもどうなんだ?とはなるが……一人じゃ行けない場所だしなあ。

「あでも水着代もったいないからやっぱこの話無しで」
「いやいや水着代くらい俺様が出すから!車も出すし!!」
「必死すぎてこわい」
「お弁当も作るからあ!」
「節約上手か」

確かにプールとかで売られてるご飯物ってなかなかのお値段するもんな。お弁当の方が安く済むな。

……と、まあそんなわけで。二人の休みが重なっていた木曜日、私たちは少し遠くのレジャープールへ向かうこととなった。


 *


「なっっっっんでアンタらがいんの……!?」

前日の仕事終わりに水着を買いに行き、当日になれば私も心なしかウキウキとしていた。
レジャー施設について各々更衣室へと別れ、何故か佐助より先に出てきた私を見つけたのは、予想外にも元親さんと家康さんと慶次さんの三人で。
あれっもしかして春佳ちゃん?と気軽に声をかけてきたのは慶次さん、そしておお久しぶりだな春佳!元気そうだな春佳殿!と元親さんと家康さんも歩み寄ってくる。
私も私で思わぬ再会と奇跡的な偶然に驚き、えっわあお久しぶりですすごい偶然!と謎テンションで対応してしまった。レジャー施設の空気というものはすごい。

そしてそんな私たちを見つけた佐助の第一声が、アレである。

「たまたま休みが重なってな。元親が泳ぎたいと言ったんだが、海はもうクラゲが出ている頃だろう?」
「だから俺が、じゃあプール行こうぜ!って。孫市たちにも声かけたんだけど、さすがに平日じゃあ断られてさあ」
「んで、男三人で悲しく夏を満喫しに来た、ってェわけだ。にしてもまさか、春佳と猿飛に会えるとはなァ」

わなわなと震えていた佐助がそこで何かに気付いたらしく、ちょっと春佳ちゃんこっち来て、とガチトーンで腕を引かれる。
三人に背を向けこそこそと何を言い出すのかと思えば。

「ていうか、え?春佳ちゃん何でアイツらと知り合いなの?」
「……そういえば話したことなかったっけ?一回飲み会に混ぜてもらったんだよ」
「何それ聞いてない!いつ!?」
「佐助が来る前」

何こそこそ話してんだ?と元親さんが声をかけてきたので、いいえ何でも、と笑顔を向ける。相変わらずわなわなしている佐助は、もうなんか倒れそうですらあった。
どちらかというと状況的に倒れそうなのは私なんだけどな。イケメン四人に囲まれるとか今すぐ逃げたいとだいぶ思う。しかも全員バサラキャラ。改めてこの世は一体どうなってんだ。

「猿飛と春佳ちゃんってどういう関係?……あ、真田繋がり?」

せっかくだからもう五人で遊ぼうぜ!ということになってしまい、私は周囲の女性の目に怯えながら身を隠していた。というか隣に佐助と元親さん、背後に家康さんと慶次さんとなってしまえば必然的に身体が隠れた。いっそ正面にも誰か歩いていてほしい状況だ。
そうなったらなったで傍目に見ると『あの女の子大丈夫か……!?』と不安になる絵面だろうけど……なんて現実逃避をしていれば、慶次さんが首を傾げる。
それには佐助が「そんなとこ」と雑に返答して、私も「武田さんに頼まれて、今は私の世話をしてもらってるんです。恥ずかしながら」と付け足した。せっかくぼかしたのに、といった視線を佐助に向けられたが知らんぷりだ。

とりあえずは流れるプールに入り、ぷかぷかと流されながら水を楽しむ。元親さんと家康さんは元気良く泳ぎに行ってしまい、流れよりも速くプールを回っていた。
夏休み真っ最中とはいえ土日よりは人も少ないし、うまく人を避けている彼らなら迷惑にもならないだろう。多分。にしても元親さんのクロールめっちゃ綺麗だな。

「慶次さんは行かないんです?」
「……いやあ、実は俺、あんま泳ぐの得意じゃないんだよね」

と答える慶次さんの身体は、私と同じく浮き輪の中におさまっている。
ちなみに佐助は後ろで私の浮き輪を押さえていた。完全に保護者だ。

「アンタも一緒に行ってくれりゃ良かったのに」
「おっ喧嘩腰だねえ!」

むっすり膨れっ面の佐助に、まあ記憶持ちだと色々ややこしいのかなあと考える。
元親さんは西軍だったはずだけど、家康さんは東軍の大将だし、慶次は……中立だったか?中立っていうか何というか……別枠というか……まあとにかく、多少なりとも相手しづらいんだろう。忍と国主な時点で、同格でもないんだろうし。
となると、現状はさすがに可哀想だったかな、と考えた辺りで――佐助がぽつりと呟いた。

「せっかく春佳ちゃんと二人きりでデートだったのに……」

エッそっち!?と思わず振り向いてしまえば、佐助がはっと口元を覆う。ちゃうねん、いやそうじゃなくて。もしかして今の聞かれちゃった……!?みたいな乙女の表情は要らなくて。
深読みしすぎた私が悪いのかもしれないけど、エッ、元戦国武将たちそんな感じでいいの!?めちゃくちゃ現代に順応しているようで何よりですけども!


妙にテンションを壊してしまったせいでぐったりしつつ、流れるプールを一周して戻ってきた元親さんたちの言葉に従い、今度はウォータースライダー付きのプールへ向かう。
ウォータースライダーは二種類あり、右に左にぐるんぐるん回るタイプと、複数人で浮き輪ボートみたいなのに乗ってちょっと宙も跳んじゃうタイプのやつだ。どっちも乗りたくねえなと心底思った。

「「じゃ、行ってらっしゃい」」

若干青ざめた顔で手を振ったのは私と慶次さんで、「ハァ!?」と憤りを露わにしたのは、やっぱり佐助だった。

「いや俺様さあ春佳ちゃんとプール来たのに何で野郎二人とウォータースライダーでキャッキャしなきゃいけないの!?春佳ちゃんが行かないなら俺も行かないよ!」
「様抜けてるよ、様が」
「俺様も残りますう!」

「まるで連れションしたがる女子だな」「猿飛はあんな奴だったか?」「最近の男ってのァ独占欲が強くてやんなるねえ」と冗談めかしてヒソヒソする三人に、「そこ聞こえてんだよ!」と佐助がシャウトする。なんだかんだ楽しそうだなこいつ。

「つーか春佳ちゃんとそこのナンパ男を二人っきりにするとか絶ッ対無しだから!」
「さすがに真田の妹には手ぇ出さないって!……あ、そういえば言うタイミング逃してたけど、春佳ちゃんその水着よく似合ってるよ。かわいいなあと思ってたんだ」
「え、ほんとですか?ありがとうございます、嬉しいです」
「そういうとこォ!!ていうかそれ俺様が先に言いたかった!!!」

やっぱり佐助めちゃくちゃ楽しそうだな、と思いながらへらりと笑う。
そうこうしている内に結局、もう全員で行こう!絆を深めよう!と家康さんに腕を引っ張られてしまい、あれよあれよという間に私たちは五人でちょっと宙にも浮いちゃうタイプのウォータースライダーの列に並んでいた。あれえ。

「佐助が喚いてなかったら逃げれたのに……」
「俺様も変なテンションになっちゃったなとは思うけど……ごめん。でもま、こうやって思い出増やしてくのも楽しいじゃん?」
「……まあ、」

ぼそりと「アイツらは要らなかったけどね」なんて呟いたのが聞こえたが、それに反応するより先に、私たちが乗り込んだ浮き輪ボート的なものが滑り始めてしまった。
あとは私と慶次さんの絶叫と、元親さんと家康さんの笑い声が響くばかりで。

「春佳ちゃんの叫び声って新鮮〜」

だなどとほざいていた佐助の、どこか愉しそうな声は、聞こえなかったふりをした。


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