こうなりゃヤケだ。意見がころころ変わっている気もするが、元よりそういう人間なので仕方ない。
多分、ほとんど、私の主観ですけど。そう前置きをして、私は姉、幸村さん、そして佐助との事を、洗いざらい吐き出した。
きっとここまで吐き出すのは初めてで、誰も知らない、誰にも言うつもりなんてなかった事まで口にするのは、恐ろしくも、嬉しくもあった。私はそれを誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。そうして、その通りだと同意してもらいたかった。

私は誰にも必要とされてない、だなんて。中二病真っ盛りかと我ながら思う、そんな本心を。
同意してもらえれば、安心する。安心して、一人きりの世界に閉じこもれる。誰も信じないで、誰も私の中に入れないで、自分で自分を守ることが出来る。
私のことなんてちっとも見ていない癖に「大切だよ」「必要だよ」なんて、薄ら寒い綺麗事に、悩まされなくて済むんだ。

「私、こう見えて頑固なんで。佐助がもし、仮に、本当に私のことを好いてたとしても、それを百パーセント信じられることはないと思うんです。私が佐助に好きだと伝えて、佐助がそれに応えてくれても、その先、今みたいにゆるい幸せを享受出来たとしても、姉さんと佐助が顔を合わせる度に、一番は私じゃないんだなって思ってしまう」

こんなメンヘラ話をされても、二人は困るだけだろうけど。それでも、きっとこの二人は優しいから、私を突き放しはしないだろう。
何でかそう確信していて、それに、政宗さんは私の欲しい言葉をくれるとも確信していた。

「父さんと母さんには感謝してます。私を育ててくれた人ですから。姉さんと一緒に買い物したり、しょうもない話をするのも嫌いじゃないです。でも私は、あそこに居たくない。姉さんの方が大切な癖に、私の心配もしてみせるから、惨めになる。
 幸村さんにも会いたくない。私はあの人の妹になりたいわけじゃなかった、妹として大切になんて、されたくなかった。好きな人に向けられる感情が家族愛だけだなんて、惨すぎるじゃないですか。それならいっそ、嫌われてる方がマシなくらいです」

時折相槌を打つ程度に聞いてくれていた政宗さんが、くつくつと笑った。
「わがままだな」と呟かれ、私も苦笑を滲ませる。

「そうじゃないと、自分のことを守れないじゃないですか」
「You are right. 我が儘に生きる人間は、長生きするからな」

こじゅさんが呆れ気味に肩を竦める。それを見てまた苦笑し、冷めたお茶で喉を潤した。

「――あまり口にしたくないですけど、私はやっぱり、佐助が好きなんだと思います。それが絆されたり、流されたりした結果だとしても。……好き」
「熱烈だな」
「茶化さないでください。……だからこそ、離れたいんです。代替品なんて嫌だ。私は姉さんの代わりじゃなくて、春佳です。私を透かして姉さんを見るような男の傍で、ずっとそう思いながら生きてくなんて、まっぴらご免だ、って」

口を閉ざし、唾液を飲み込む。ごくり、大きな音がした。

「佐助だって、私だけを見てよ!なんて思う女と、一緒になんない方がいいでしょう?」

政宗さんには茶化さないでと言った癖に、最後には茶化すように笑ってみせた。
だってこんなの、本当にくだらない。メンヘラ女が癇癪を起こしてるだけだ。大声で笑い飛ばしてしまいたいのに、多分今の私は、へたくそに笑っている。
それでもここで泣いてしまわないのは、ほんのちょっとだけ残った私のプライドだった。泣いたらそれこそ、悲劇のヒロイン気取りだ。へらへら笑いながら肩を竦める程度が、私には多分、丁度良い。

「……春佳。俺を見て、どう思う」
「は?」

暫く黙り込んでいた政宗さんが、不意に身を乗り出して私の耳元に触れた。
え、私のメンヘラ話フル無視?とアホ面を晒してしまったところで、思い出す。――そういえば結婚式の日にも、こんなことを問われたような。

「どうも何も……もうちょいこう、慰めの言葉?的な?こと言ってくれてもよくないですか。神妙な顔するとか……」
「変わったな」
「……?」
「俺が何をしたいのか、解るようになっただろ」

耳の縁を親指でくすぐられ、無感情にその手へ視線を向ける。
慰めるつもりなんてさらさらないんだろうな、とは思った。視線を顔へと戻せば、意地悪そうに口角を上げて、試すような目で私を射抜いている。

「当てつけでは、ないんですね」

半ば睨むように政宗さんを見据えれば、ますます笑みが深くなった。

「話を聞いてより確信したぜ。俺と春佳の利害は一致している。愛情溢れる幸せな家庭、なんてのは作れねえだろうが……俺たちはきっと、楽に過ごせる」

そうしてほんの僅か、切なげに眉尻を下げた政宗さんの手が、私から離れていく。その指先を『細い』と感じたのは、誰と比べたからだろう。
一瞬だけの思案をして、今度は私が政宗さんに手を伸ばした。離れていく手を絡め取り、握手をするように繋ぐ。

「私は、誰かに言って欲しかった言葉があります。政宗さん、わかりますか」

机の上で握手をする、なんて変な光景だ。このまま腕相撲でも始まるんだろうか、現実逃避をしながら、目の前の人の返答を待つ。
きっと、この人は言ってくれる。私がずっと欲しかった言葉を。私がずっと、聞きたかった言葉を。

「俺は春佳を、一番には愛せねえ。女としても、友としても、春佳は俺の一番ではない。永久にな」

欲しかった通り、そのままの言葉で鼓膜が震えるのを感じながら、ぎゅうと政宗さんの手を握る。

「それでも、俺の世界に春佳を置いてやる。あんたは俺の世界の中で、自分の世界を作って生きりゃあいい」
「上から目線ですねー」
「事実、春佳よりゃ上に立ってるからな」

繋いでいた手をくすくすと笑いながら離す。

「俺からのproposeなんてこれきりだ」とやれやれのポーズをしてみせる政宗さんに、さっきのはプロポーズになるんだろうか、と考えて。
ああ、でも、なんて幸せなことだろう。一番じゃないと断言してもらえることが、こんなにも私を安心させてくれる。最初からそう言ってもらえれば、余計な期待もせずに済む。
私はその言葉を、信用できる。

「ありがとうございます、政宗さん。こじゅさんも、話を聞いてくれてありがとうございました。なんだか私、今までで一番、良い気分です」

頼れる人がいるって、良いことですね。二人に相談して正解でした。
そうして頭を下げれば、こじゅさんは複雑そうに、政宗さんは得意げな表情で「気にするな」と応えてくれた。


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