佐助の運転で、実家まで向かう。途中、サービスエリアで佐助はお土産とコーヒーを買い、私はコロッケと、美味しいと有名らしいパン屋でいくつかのパンを購入した。
無駄遣いだと佐助には顔を顰められたが、サービスエリアには何かそういう魅力があるもんだと思う。仕方がない。ソフトクリームは諦めたんだから許して欲しいところだ。単純に寒かったから、というのもあるが。

再び走りだした車の中は、佐助が好んで聴いているらしい洋楽が流れ続けているだけで、存外静かだ。
何かしら話しかけてくるものかとも思っていたが、佐助は喋らない。私も、口を開きはしない。
景色を眺めたり、隣の車線を走る車のナンバーを計算したりと、無為に過ごす。高速道路は時々電波が入らなくなるから、スマホで暇を潰すことも出来ないし。……別段、ツイッターで呟くようなこともない。

ちらと横目で佐助を見やる。いつも通りの表情。真っ直ぐに前を見て、ハンドルを握っている。
今度はサイドミラーに映った自分の顔を眺めた。私もいつも通りだ。悲しそうでも、楽しそうでもない、無表情。
何だか可笑しく思えて仕方がなかったけれど、特に笑うこともなく、私は少しだけリクライニングを倒した。

「眠い?」
「ううん、大丈夫」
「そ?眠かったら俺様に構わず、寝ていいからね」

柔らかく、佐助の口角が上がる。
どうしてそうしたのか自分でもわからないまま、それを鼻で笑ってスマホを手に取った。

「寝ないよ」

小声の返答に含まれた拒絶を、佐助はいつだって解っているんだろう。


 *


到着が夜になったので、数ヶ月ぶりの家族との再会はこぢんまりとした料亭で、となった。
上月の家の方が、誕生日や記念日にお世話になっているお店だ。高すぎず安すぎず、季節を切り取ったような日本食を出してくれる。
父さんと母さん、私、佐助、幸村と姉さん、そして姉さんの子供二人の合計八人が入れる個室に通されれば、そこには既に姉さん一家が座っていた。父さんと母さんは、まだ来ていないらしい。
軽く挨拶をしてからいつも通り下座に腰を下ろせば、その間に佐助は姉さんと幸村に歩み寄って片膝をついている。

「真田の旦那、絢佳ちゃん、久しぶり。元気だった?四人とも体調崩したり、怪我したりしてない?」
「久しいな佐助。此方は何の問題も無いぞ。佐助と春佳はどうだ?」
「こっちも元気だよ」

佐助と幸村の会話が終われば、姉さんが「久しぶり、佐助」と微笑む。……そういえば、姉さんと佐助がちゃんと話しているところを見るのは、初めてな気がした。姉さん、佐助のことを呼び捨てにしていたのか。年下なのに……ってのは、私も人のことを言えないが。

「春佳に迷惑かけられてない?めんどかったら、いつでもこっち戻ってきて良いからね」
「いやいやそんな!むしろ俺様が春佳ちゃんに迷惑かけてるくらいでね」
「それな」
「春佳には迷惑かけるくらいで丁度良いでしょ」
「姉さん……」

時折会話に混ざりながら、へらへらと笑っておく。一瞬、気遣うような視線が幸村から向けられた気がしたけれど、それにもただ笑みを返しておいた。
昔から姉さんはこういう人だ。今更気遣われることでもない、慣れてる。

「ねーね、この前ね、ようちえんのかけっこで一番になったんだよ」
「ぼくもね、おえかきでせんせに褒めてもらった!」

姉さんの子供達が駆け寄ってきてくれたので、「本当?すごいね!」なんて二人の頭を撫でながら、少しほっとする。
この二人のことは好きだ。私の世界にほんの少ししか関わらないし、関わったとしてもそこを壊すことはない。幼きことは良きことかな、なんて心の中で笑う。

暫くそうやって遊んでいれば、「遅くなってごめーん!」と謝りながら母さんと父さんが個室に入ってきた。速やかに佐助が下座……つまり私の隣に移り、二人に挨拶をする。
全員が揃ったことで子供たちも元の席に戻り、飲み物と食べ物が運ばれ始めた。

その間も上月家と真田家の会話は楽しげに続き、私もへらへらと笑いながら話を聞く。
本当に、上手く笑えているだろうか。不安にはなったけれど、大丈夫だろうとも思った。作り笑いには慣れている。多分、佐助と同じくらい。

でも、煮凝りを口に含みながら盗み見た佐助の顔は、私にもわかってしまうほどに下手くそな作り笑いだった。

「絢佳、栄養をつけるのは大切だが、無理して食べ過ぎてはならぬぞ」
「わかってるって。ほら幸くん、口の端にソースついてる」

ソースと言うよりタレではなかろうか、と思いつつ聞いていた幸村と姉さんの会話は、至って普通の、仲の良い夫婦のものだった。
それを喜べたらいいのにね、と胸の内で佐助に向けて呟く。

自分の気持ちを、きっと整理も出来ているだろう気持ちを、他人に察されるなんてことを佐助は嫌うだろう。ましてや言葉にされるだなんて、以ての外。だから私は、何も言わない。
でも、そうだろうと思ってしまった。気付いてしまった。
こんなもの、察したくなんてなかったと、そう考える自分にも。

「絢佳ちゃん、真田の旦那だって子供じゃないんだから。ほら旦那、お手ふき」
「おお、すまぬな佐助」
「佐助だって幸くんのこと子供扱いしてるじゃん」

えへ、だなんて戯けてみせる佐助。
あんたって、そんなに感情隠すの、下手だったっけ。


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