十一月になって一週間経つか経たないかの頃、私と佐助のスマホに、ほぼ同時に同様の連絡が入った。
私には母さんから、佐助には幸村さんから。
『絢佳が妊娠した』との連絡が。

姉さんと幸村さんが結婚したとこで、私の生活にこれといった変化は無かった。元々家族と連絡をとる方じゃないし、姉さんともがっつり仲が良いわけじゃない。
"佐助の存在"という大きな変化はあったけれど、幸村さんに関しては本当に、私は何の関係も無かった。正しく言うのなら、関わりを持ちたくなかった。幸村が嫌いだからじゃなく、自分の中の濁った何かを、まだ消化出来ていなかったからだ。
そのツケが、今この瞬間に来たかのような気分だった。見て見ぬ振りをして、忘れたつもりになってた、ツケが。


「真田の旦那、一回絢佳ちゃんの様子見に帰ってこないかってさ。春佳ちゃんにも会いたいって言ってる」
「……、」

私は母さんからのメール画面に見入ったまま、答えを返すことが出来ない。
佐助が何か言っているのは聞こえたけど、それは何の情報も私に与えないまま耳を通り過ぎていった。

関係のない世界にいてくれたから、私は知らんぷりをすることが出来た。その世界が、私の世界に関わりを持って来た。
ああ、まただ。また。私の世界は、多少のめんどくささはあっても、幸せだったはずなのに。

「春佳ちゃん?」
「っあ、うん、そうだね?」
「……聞いてなかったでしょ」
「……ごめん」

我に返れば、目の前で佐助が肩をすくめている。無駄に優しげな両眼を細めて、私の頭を撫でた。

こういう時、佐助は何も言わない。何も訊かない。
それが今の私には、ありがたくも苦しくもある。

「遊びに来ないかって。次の休みに、会いに行く?」
「ん……そうしようかな。幸村さん、妊婦の相手は初めてでしょ?ばたばたしてそうだし、あの人」
「だねえ、無駄にレモンとか買ってたりして」

冗談っぽく笑う佐助に、私もどうにか笑うことが出来た。
そのままの表情で、画面の消えてしまったスマホを再び手に取り、母さんのメールに返信する。『おめでとうって、伝えておいて』と。

……大丈夫、こういうことには、慣れてる。


 *


ハロウィンもとっくに終わって、クリスマスまでもまだまだ時間がある十一月は、比較的バイトの休みが取りやすい。あくまでも比較的、いわば当社比だけど。
しかも今週末はラッキーなことにベテラン先輩が二人も出ていたので、店長はあっさりと私に三日間の連休をくれた。ホワイトな職場で何よりだと思う。

「週末休みとれたよ。佐助は?」
「俺様は元々お休みでーす」
「良いこって」

日程の調整が出来たので、佐助が母さんと幸村さん両方に連絡を入れる。二人ともから楽しみに待ってるとの返信がきて、佐助はその画面を見せてくれた。
……母さん、私へのメールにこんな絵文字使ってんの、見たことないんだけど。


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