電車と新幹線を乗り継いで辿り着いた地元の駅。懐かしいなと思いつつ母に『着いたよ、どこ?』と連絡を入れる。
十分経っても返事が無かったので駅構内の喫茶店に入って、持ち帰り用のカップでハニーカフェオレを注文し、適当な席に座る。ツイッターを見たりゲームをしたりと時間を潰していたら、合計三十分ほど経って母からメールが返ってきた。

『私はまだ仕事中だから、真田さん家の人がお迎え行ってくれるって。その足で絢佳と真田さんと晩ご飯食べて』

「ファッ……!?」
とても高い声が出そうになったのを、ぎりぎりのところで押しとどめた。

曰く、その真田さん家の人は駅のロータリーで待っているらしい。え……なに……?怖いんだけど……と思いつつ数日分の荷物が入ったキャリーと鞄、お土産とカフェオレを手によたつきながら店を出た。
西口へ向かいながら、『忘れてた』と送られてきた車のナンバーと、真田さん家の人のおおまかな人相を確認する。

『明るめの茶髪でヘアバンドをつけてる背の高い人だから、すぐ解ると思うよ』とのメールに、下りのエスカレーターから荷物を投げ落としたくなった。
そ、それもう佐助じゃねーか!


何この世界わけわからん……私いつの間にかトリップとかしてない?それかこれ壮大な夢じゃない?とスマホを睨みながら百面相になってしまう。
恐る恐るほっぺを抓ってみたが勿論痛かった。

駅のロータリーに辿り着き、周囲をぐるりと見渡す。停車している車は三台。うち一台の前にものっそい見覚えのある外見の男性が立っていて、無性に引き返したい気分になった。そんな気分に従って足を後退させたのだけど。

「……あ、春佳ちゃん!…だよね?」

見つかって手を振られてしまい、オワタ……と脳内で顔文字が乱舞する中、結局私はその人に歩み寄りながら会釈を返すしかなかったのである。

近付いてみれば、その人はもう完全にゲーム内まんまの猿飛佐助本人だった。顔にあのメイクは見られないけど、顔立ちといい体格といい、本当にまんまである。怖い。
完全にキョドってしまっている私に、簡単な自己紹介と母に頼まれた旨を伝えてくる佐助、…さん。うへえ慣れない。
どうにかこうにか私も自己紹介らしきものをしたけれど、「知ってるよ」と笑顔のみで返されてしまった。怖い。どこまで知られてるのかがわからなくて怖い。

「とりあえず、乗って。旦那と絢佳ちゃんは七時くらいになるって言ってたから……」

腕時計をちらりと見る。今はまだ、夕方の五時だ。

「俺様と、ちょっとお茶でもしよっか」
「……いっ……え、まじで」
「まじまじ」

一人称までまんまだった事に頭が痛くなる。私完全にキョロ充だ。どうしようこれ、コミュ障だと思われても仕方ない状況すぎる。だいたい合ってるけども。
佐助さんは手際よく私から荷物を受け取ると後部座席にそれを置き、助手席のドアを開けた。手、手慣れてらっしゃる……。
私はハニーカフェオレを片手に持ったまま、もうどうにでもなれと頭を振って助手席に座る。シートベルトまで佐助さんにつけられて心臓が口から飛び出るかと思った。そんなサービスは要らない。
佐助さんも運転席に座って、「どこ行こっか?」なんて気軽そうに話しかけてくる。今この瞬間だけでいいからそのコミュ力分けて欲しい。あと状況説明オネシャス。真面目に。

「ど、どこでも……」
「ん〜……じゃあ、じっくり話せるとこ行こうか」
「エッ」
「春佳ちゃん、俺様に訊きたいこと、いっぱいあるみたいだし」

ね?とハートマークが付いてそうな笑顔とウインクを向けられてしまい、ああこれがゲーム内だったら「佐助ちゃんかわいい〜!」で済ます事ができたのにな……と無駄に優しい笑みが漏れた。
バサラ技が現実でも使えたのなら、私は今きっと丸ボタンを連打しているところだと思う。


静かなエンジン音が響く中、佐助さんはアクセルを踏む。
その横顔を盗み見ようとしたら、視線が絡んだ。笑まれる。目を逸らす。
窓の向こうを流れる景色はとても見慣れたものなのに、どうにもここが現実の世界だと思えない。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -