『久々に体調崩したけどなんとか治った〜。バイトと被んなくてよかった』

カタカタとキーボードを鳴らしながら文字を打ち、エンター。
ツイッターに投稿された自分の呟きをぼんやり読み返して誤字が無いかを確認してから、画面をスクロールさせてタイムラインを眺めた。面白い呟きがあればRTしたりふぁぼったり。
暇になるとどうしてもツイッターを開いてしまうのは、もう仕方ないことだと思う。うん。

今日は仕事らしい佐助も、多分もうすぐ帰ってくるだろう。
ああそうだ、佐助が帰ってきたら、部屋の暗証番号を何で知ってたのか問い詰めなければ。ていうか今の内に暗証番号を変えておこうか。いやでもあの人のことだから変えても意味無さそうだなあ……。

ふと見れば、画面の右下にひょこんとリプが届いたというお知らせが出ている。
誰からだろうとリプ欄にとべば、春の終わり頃だったか…そのくらいの時期にフォローされた人からだった。
特に当たり障り無い呟きしかしない人だったし、見てるアニメなんかも被ってたからフォローを返したのも確かその頃だ。それ以来、割と頻繁にリプをとばしてくれる。やたら日常ツイもふぁぼられる。

『もう大丈夫?無理はしちゃだめだよ』とのリプに、『大丈夫!心配かけてごめんなさい』と、特に何も考えずに返事。
迷彩柄のマントを羽織った猿の絵が描かれているアイコンを、なんとはなしに眺めた。
ツイッターIDは@fly_monkey、名前はモン助さん。
そこまでをぼんやり眺めて、不意に、あれ?と何かが引っかかった。だけどその引っかかりの正体を見つけるより先に、モン助さんから再びリプが来る。

『謝るようなことじゃないよ!あったかいもの食べて、バイトの事ばっか考えずにゆっくり休んでね』
――「春佳ちゃんバイトのことばっか考えすぎ!あったかいもの食べて、ゆっくり寝てなって」

体調を崩して、ようやく治ってきた日の夜。バイトがある日までには完璧に治したいとぶつぶつ言っていた私に、佐助が怒ったように告げた言葉が脳内でリフレインした。

……え、いやいや、まさか。だってこの人が私をフォローしたの、佐助と会うより前なんですけど。
いつぞやかの焼肉の時、『今日は焼肉だーい』って呟いたら、一分と経たずに『いいなー!いっぱい食べなよ〜』ってリプくれたりしてたんですけど。
まさかそんな、偶然……偶然……、にしては、出来すぎてませんかね……?
fly_monkeyって、訳したら猿飛なんですけど……いやでもまさか……。


パソコンに向かったまま、微妙な笑顔で固まってしまった私を現実に引き戻すかのように、ぴんぽーん、とインターフォンが鳴らされる。
通話ボタンを押せば、案の定と言うべきか……「ただいまー」という佐助の声がした。ふと、パソコンに視線を戻す。

モン助さんが、『やっと家ついたー、もう今日はくったくただよ。いっぱい癒してもらお!』なんて、呟いていて。

「……、」
ひくりと、喉の奥が引き攣った。


ややふらつきながら玄関へと向かう。あの日以来しっかりとかけるようになったドアガードと、鍵を開ければ佐助がへなりとした笑みで私を見下ろしていた。

「ただいま。もう俺様、今日はくったくたでさ〜……春佳ちゃん、いっぱい癒して!」
「…………」
「……?どしたの、春佳ちゃん」

本来ならドン引きして、今すぐ母さんと武田さんに連絡とって佐助を帰すよう言いたいくらいのはずなのに、なんだかもう……げんなりとした表情しか浮かべられなかった。
うわあ、これ、もう……ウワァ〜……。

「佐助……」
「なに?」
「……モン助さん……」
「あ、なーんだ春佳ちゃん、やっとわかったの!?遅いよ〜」
「ああ、うん、そう……」

なぜか私の頭をひと撫でして、佐助はドアガードと鍵を閉める。靴を脱いで玄関にあがって、そのまま私を通り過ぎ、冷蔵庫の前に買い物袋を置いた。
その様子をなんとも言えないまま眺めて、溜息をひとつ。そうして佐助の後を追い、とりあえずの疑問を投げかける。

「モン助さんにフォローされたの、佐助と会う前なんだけど」
「つっても俺様、美野里さんや絢佳ちゃんに聞いて春佳ちゃんのことは結構前から知ってたし」
「だからってツイッターのアカウントまでわからなくない……」
「俺様は元忍だよー?そんなのすぐ解るに決まってんじゃん」
「うっわぁ……」

ドン引きである。

だけどそれ以上に、なんだ、こう、アレだ。
私のアカウントは相当仲の良い友人と、オン友にしか知られてないわけで。ツイッター上だけでのお付き合いをしてる人も何人かいるけど、まあつまり現実での私を知ってる人は限られてるわけで。
だからリアルでの愚痴だとかも、時々、垂れ流してたわけで……。もちろん私が好きなものに関する呟きも山のようにあるわけで……。

「……それを全部佐助に見られてたのかと思うと……ッ!」
「春佳ちゃん、飛び降りはしないでよ?」
「家族に垢バレするくらいならマンションの屋上から飛び降りるわーって呟きも見られてたのかと思うと……!!」

もう顔を覆うしかない。
こんなの絶対おかしいよ!誰だ有り得ないなんてことは有り得ないとか言ったやつ!泣きたい!恥ずかしい!!

「あっは、春佳ちゃん顔真っ赤〜。か〜わいい」
「こっち見んなください!」

その場に崩れ落ちる私を眺めて、佐助が「俺様はオタクな春佳ちゃんもネガティブな春佳ちゃんも大好きだけどなあ」なんてけらけら笑っているもんだから。
私はうっかり、暗証番号のことを佐助に問い詰めるつもりだったのを忘れてしまった。

「ツイッターアカウント引っ越そう……」
「引っ越してもすぐ見つけるけどね?春佳ちゃんの作ったbotも別アカも全部知ってるし」
「気持ち悪っ」
「その言い方は傷付く!」


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